遠き都に帰れない

 季節の変わり目になると実家を継いだ兄から掛かってくる帰省を促す電話がいい加減鬱陶しくなり数年ぶりに帰省したが、チャイムを押せども誰も出てこず留守なのかと扉に手を掛ければ軽々と開いたので、不用心さに呆れつつ家族の姿を探して室内を歩けば、記憶と変わらない洋間に見慣れないピアノが置かれていて、習い事でも始めたのかと近寄ればその埃ひとつない蓋の上に置かれたメモ用紙に「散歩からはすぐに帰ります」と見覚えのない字で書かれているのを読んでしまった途端に玄関の方から派手な轟音と共に歓喜に満ちた咆哮が響き、地鳴りのような足音が迷いなく俺の元に迫ってきた。

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