悔恨:行先未定

 子供の頃、夏休みになると旅行も兼ねて父の実家に帰省していたのだが、二階の和室で昼寝をするたびに知らない男に俺のせいで女に逃げられただの借金で土地も家も手放しただの親兄弟にも見捨てられたなどの身に覚えのない恨み言を延々と聞かされる夢を見ていたのだけども、親族の誰に聞いてもそれらしい人物は浮上せず、そもそも長年生活していた祖母や父も覚えがないそうなので、俺一人の問題なら別にいいかと放っておいたのだが、大学進学を機に上京した頃に祖母が亡くなり、課題や授業に追われているうちに家が取り壊されたという連絡だけが届いたので、あの男は和室からどこかに行けたのだろうかと夏になるたびに思い出している。

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