深くて暗い一級河川

 子供の頃、両親から「お前は橋の下でマネキンと一緒に捨ててあったのを拾ってきた」「もう一人いた兄は三つで川に取られてしまった」「今の兄はいつの間にか家にいてお前の兄だと名乗っていた子供」と雑な嘘を吹き込まれていたのだけども、その性悪の両親は俺の仕事の繁忙期たる五月の連休に旅行先で死んでしまったので、どうにか実家に帰り兄と二人で葬儀を始めとした後始末を済ませたのだが、夜に酒を片手に思い出話のつもりで幼少期に聞かされた嘘を口にしたら、喪服の兄は缶ビールを手にしたまま「一つだけ本当なんだよな」と目を細めるので、俺はどれが本当ならマシだろうかと薄ぼんやりした酔いの中で考えている。

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