通りすがりのただの兄

 面倒なので家にいる間は玄関に鍵をかけずに生活していたのだが、そんなことをしていたせいか毎週土曜日の午後二時になると兄を名乗る男が玄関から入ってくるようになり、勝手に部屋を掃除したり都会で遊んでないでたまには実家に帰ってこいとそれらしい説教をしたり夕飯に冷蔵庫の残り物で炒飯を作ってくれたりするのだけども、その左目の泣きぼくろにも飯の味にも心当たりはなく間違いなく他人のはずなのに、他愛のない世間話や思い出話を聞き続けていると本当に昔この男と兄弟として生活していたのかもしれないと思う瞬間があるが、その度に俺はまだこいつの名前も知らないということを思い出しては正気を保っている。

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