悲鳴のように名前を呼んで

 父とは血の繋がりはないが、高熱を出したときには氷枕を派手にしくじっても看病してくれたし高校受験のときも当日まで当事者の俺より動揺しながら買ってきた安産祈願の御守を渡してくれたし朝夕の食卓では未だに下手な雑談をどうにか続けようとしたりと、二年前に出奔した母よりも真面目に親を努力している人なのに、家族になった五年前から日に三回は俺のことを覚えもなく響きも到底似ていない他人の名前で呼んでしまうのだけど、その瞬間に見せる隠しごとがバレた子供のような表情と呼び直したときの声はいつも通りの優しさを取り繕おうとしているのがよく分かるからこそ、俺はその癖に気づかないふりをしている。

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