第九話
色とりどりの水着に目を奪われ、いろいろとはしゃぎながら水着を物色する華美と、それを横目に見ながら、自分でも物色する詩織。
一目ぼれとでもいうのか、すでに決めることのできた詩織はこそっと後ろから華美に近付く。華美が気付いていないことをいいことに耳元で口を開き小声で
「氷翠くんはどんなのが好きなんだろうねぇ?」
背後から声をかけられたことへの驚きか、それとも頭の中を見透かされていたことへの驚きか、大きく肩を飛び上がらせる華美。もともと薄紅色だった頬が真っ赤に染まったため前者三割、後者七割といったところか。
「ど、ど、どうしたの?詩織ちゃん」
「いやー、ただ恋する乙女は可愛いなぁって。氷翠くんのこと好きでしょ」
詩織は軽い笑顔でそう言った。華美は少しの間固まって、納得したように頷き
「そうみたい、、でも、涼くんには内緒でお願い」
「そんなことしないよ、やっぱそう言うのって自分で言うのが大事じゃん?それに、そうしちゃうと面白くないでしょ。さぁさぁ、早く水着決めようか、もちろん氷翠くんが好きそうなやつ」
そう微笑んだ詩織は、涼と華美の美しい未来を望んでいた。しかし、その先にはなにもないことを詩織はまだ知らない。
◇ ◇ ◇
色とりどりの光とガチャガチャと鳴りやまぬ音が響くゲームセンターの片隅で話しながら何か音ゲーをやっている男子高校生二人がいた。言わずもがな順陽と涼である。
「お前って、大体どんなことでもできるよな」
「そうか?まぁ、否定はしないが、人並みだぞ」
表示されているリザルト画面では、順陽と涼どちらもハイスコアで、順陽の方がかろうじて高かった。何が人並みだと涼にツッコみたくなった順陽だったが、いつものことだからと納得し、ツッコまなかった。
「いや、でもすまんな。俺のしたいゲームに付き合ってもらって」
「別にいいよ、こういう系のゲーム好きだし」
「まぁ、次はリョウの好きなやつ選んでいいぞ」
そう言われた涼は、少し悩んだような様子を見せ
「じゃあ、クレーンゲームやらね?あれ何気にやったことないんだよな」
「いいぜ、どっちが多く取れるか勝負しようぜ」
「望むところだ」
そして、店の入り口近くのクレーンゲームへ向かう。途中にあった両替機で両替することは忘れないことに涼のぬかりのなさを感じ取れる。
彼は少しでも面倒くさいことを避けようとするタイプの人間なので、ついででできることはやってしまおうという魂胆だが
そうしてクレーンゲームの台を探す、彼らは別に景品が欲しいのではなくて、ただ遊びたいだけなので別にどこでもいいのだが、せめて少しでもほしい景品の台にしようとしている。
景品を取れると思っているあたり、クレーンゲームなめるなと叫びたくなるが、、
二人は結局、店の入り口にある台の前で立ち止まった。景品はおやつの詰め合わせで、二人とも別にほしいわけでもない、ただ『こいつでいっか』と思っただけである。
「「もう、これにすっか」」
そう言って先に百円硬貨を入れたのは自信満々の表情の順陽である、
「よっしゃ、俺が手本を見せてやる」
「おう、頑張れ」
目に炎が宿っている順陽に、短くそう返す涼。
順陽は生粋の陽の者、ゲーセンは何度も友達と来ている。
まぁ、手本と言っても、友達がやっているのを見ているだけだったので、実戦の経験はない。
ボタンを押して、クレーンの位置を調整する。お菓子詰め合わせを包んだ袋についた、いかにもここに引っ掛けろとでも言っている輪っかをアームが引っ掛ける。
「あれ?」
順陽にも初めてのクレーンゲーム、思ってたよりアームの力が弱かったのか、掴めて、いけたと思っても、途中でアームから景品が離れる。景品取り出し口まではまだまだ距離があった。
「お前自信満々に始めたのに、全然じゃねぇか」
後ろから笑いながらツッコむ涼、順陽は後ろを振り返って
「じゃあ、お前がやってみろよ」
そう言われた涼は百円硬貨を台に投入する。そして、ボタンを慎重に押してクレーンの位置を調整する。そのままアームは景品を引っ掛け、景品取り出し口の上でアームを開く。
「こんなもんなんだな」
「おまえすげぇな、、」
一発で取った涼に、驚きと感嘆を隠せない順陽は、変に意地を張り百円硬貨を入れリベンジを始める
負けず嫌いが発動してしまっている順陽はすでに冷静さを失ってしまっている。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あぁ、、」
それを五回ほど繰り返したところで、涼に声をかけられ、冷静さを取り戻す。大して欲しくも無いものに、ここまでする必要はないという判断だ。
「いや、完全に負けず嫌いモード入ってたわ」
「本当にお前、ある程度自制できるようになれよ、、」
「おう、善処する」
そう言って台から離れる二人、順陽が熱くなりすぎたせいで冷めてしまったので、他のところに行こうとしたとき
「あ、涼くん!それとったの?」
華美の声が後ろから二人の鼓膜に届いた。振り返ると、両手に荷物をぶら下げながら目を輝かせている華美と少し疲れたような詩織がいた。
興味津々の華美は店内を少し歩き回り、いろいろな動物を模したぬいぐるみが景品の台の前に立ち止まった。しかし、二秒ほどした後、目の輝きを曇らせて、店の外へ身体を向けた。
「やらなくていいのか?」
「いや、べつにただ気になっただけだから」
涼に尋ねられた華美は、目をそらしながらそう答える。何か思うところがあったのか、涼は何かを言おうとしたが、華美が詩織に話しかけ店の外へ出ようとしていたので、言うのをやめて、順陽と彼女らについていった。
あとがき
書き溜めが尽きたので、ここからは不定期
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