第八話

「服は買ったし、次はどこ行く?」


「うーん、私、何があるか分からないんだよね」


「じゃあ、適当に歩き回って興味あったら入っていくか」


「うん、そうしよ」


 服屋から出てきた二人は、とりあえずで下の階へ向かうべくエスカレーターへ向かっていた。

 涼の手には大きめのビニール袋があり、流石の涼も男としてしなければとでもなったのだろうか。


 二人がエスカレーターで下に降りて行ってると、涼の視界に見慣れた一人の男が入ってきた。


「「あ、、、、えぇ!?」」


 そして、エスカレーターの丁度真ん中ですれ違ってカンマ数秒後、涼とその男は声を合わせて驚いた。


 ◇  ◇  ◇


「まさか、お前がこんなところに来るとはな、しかも女連れで」


「後半部分はお前もな」


 まだそこまで混んでいないフードコートの一角、男子二人が互いに興味津々といった笑みで向かい合っており、それぞれの付き添い(?)の女子二人はストローに口をつけては離すを繰り返していた。


 その男子二人は涼と、その親友、順陽であった。


「それで、いつの間に彼女つくったんだ?」


「彼女じゃねぇよ、まぁいろいろあったわけだよ」


「ほーん、まぁ、紹介するわ、こいつは俺の義妹いもうと久崎くざき詩織しおり、妹と言っても義理の方な。そして、同年齢。俺の方が誕生日が一週間早いってだけなんだが、義妹がいいって詩織が言ってきかなかったんだよな」


 そう順陽が紹介すると、彼女はぺこりと頭を下げる。華美もそれにお辞儀を返した。

 一週間の差であれば、別に義兄、義妹で決めなくてもいいのにと思った、涼と華美であったが、本人が義妹の座を気に入っているように見えたため、気にするのをやめた


「お前に義妹なんていたんだ、知らなかったわ、、、ん?そう言えば義兄妹ってけっk、、」


 涼が何か言おうとしたが、途中で詩織に口を抑えられた。その時の彼女の顔は赤くなっており、やけに順陽の方を気にしていた。


≪あ、これ、もしや、、≫


 涼は口を塞がれながらもそんなことを考えていた。その脳内を読んでいるかのように、詩織は涼の耳元に近付き、小声で


「(オマエ、要らないこと言わなくていいから)」


 背筋にツゥーと冷汗が流れるのを感じた涼は、首をカクつかせながら頷いた。


「お、俺は氷翠涼、よろしく」


「天川華美です、よろしくお願いします」


 涼は軽く、華美はいまだ距離感を掴めていないのか、少し硬かった。


「よろしく」


「よろしくな」


 久崎義兄妹はそんなこと気にせず、こう応えた。

 

「で、経緯の方を聞かせてもらおうか、リョウさんや」


「マジで、しなきゃいけないやつ?」


「おう、このままだとお前がレンタル彼女してたって決めつける」


 順陽はニヤァと悪い笑みを浮かべる、涼は「はぁ」とため息をつき、諦めたように昨日のことをかいつまんで話した。


「……まぁ、そんなもんよ」


「お前、あれだよな、昔からそういうとこあるよな」


「なんだよ、悪いかよ」


「悪くねぇよ、むしろ俺はすごいかっこいいと思う」


 涼は基本素っ気無くふるまっているが、目の前に困っている人がいると、態度が一変し、放っておけなくなるタイプだ。久崎とここまでの仲になったのも、このおかげだったりするが、それは別のお話。


 涼と順陽の二人で話している間、華美と詩織も話していたようで、詩織が代表して提案した。


「とりあえず、男女分かれて行動しない?いろいろとそっちの方が都合がよさそうだし」


「まぁ、それもそうだな」


「そうなら、ほらこれで買ってきな」


 涼はそう言って、昨日母に言われ用意した封筒を華美に渡した。華美は戸惑ったように


「え、これって」


「それは今日華美のものを買うためって、母さんから」


「そうなんだ」


「じゃあ、行くよ華美ちゃん」


 それで納得した彼女は、詩織に手を引かれて二人でショッピングセンターの人混みに潜り込んでいった


「俺らも行くか、まぁ、適当に遊ぶだけなんだけどな」


「そうだな」


 そう言って、順陽と涼も歩きだしていった。


 ◇  ◇  ◇


「さぁてと、華美ちゃんは何が必要なの?」


「えーっと、下着とかは必要だと、、、」


「まぁ、そうだよね、まずはそこ行こうか」


 そう言って詩織が先導して歩く二人。

 華美はそうだが、詩織も美少女であるため、周りからの視線を引き付ける。

 詩織はすでに慣れている様子だが、華美はこんな人混みに入った経験は少ないため、まだ慣れていないようで、キョロキョロしていた。それにはこのショッピングセンターへの興味というのもあるだろうが。


 大体必要なものを買いそろえたのち、ふらふらと歩き回っていた。

 

「華美ちゃん、他に何か欲しいものある?」


 華美から封筒をかりて、中身を確認しながらそう言った


「え、でも、もう必要なものは買ったし、そのお金は恵さんのものなので、、」


「ちょっと、これ見てみなよ」


 封筒の中には必要なものを買うにはあまりに高い金額と


『母さん曰く、この金は華美の必要なものを買うのと、小遣いだそうです  涼 』


 と書き記された紙が入っていた

 

「だからある程度欲しいもの買ってもいいんじゃない?」


「うーん、まだ気が引けるんだけど、、」


「じゃあ、この夏何がしたい?」


 詩織が華美に聞くと、華美は目を輝かせながら


「海に行きたい、それと、夏祭りにも行きたい。花火もしたいなぁ、あとはどこか遠出してみたい!」


 彼女の家は厳しく、自分でつくった友達と遊ぶということが片手で数えられるほどしかなかった。そして、家に縛られたその空白の夏休みの間、彼女は親の目をかいくぐり、スマホでライトノベルを読むことに没頭した。自分の体験できないことを文字の世界の中で疑似体験し、憧れていたのだ。

 憧れたものが手につかめるチャンスができたら、当然テンションも上がるものである。


「そうかぁ、なら水着とか買いに行こっか」


 詩織はこの短い期間で、華美が人一倍遠慮しがちなことを理解していたため、少し強引に腕をひいて、水着ショップの方へ向かった。

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