第七話
華美が目を覚ますと、そこには見慣れない天井。一瞬頭に疑問符が浮かんだようだが、頭がクリアになっていき疑問符は消えていった。
≪そうだ、、私、涼くんの家で、、暮らすことになったんだった≫
洗面所で顔を洗っていると、涼が部屋から出てきた
「あ、、、えっと、、おはよう」
「お、おはよう」
そう言って、洗面所を後にした華美はキッチンへ向かい、エプロンを装備し、朝食の用意に取り掛かった。
一方涼は、顔を洗いながら
≪そういえば、、俺、、まともな私服あったっけ、、≫
◇ ◇ ◇
「じゃあ、ちょっと出かける準備するから華美も準備しておいで」
朝食をとって、洗い物終えた涼は華美に声をかけた
「そうだね、、と言っても着替えだけだけど、、」
「まぁ、そうだな」
そう言って、涼はそのまま自室へ、華美は浴室で干していた唯一の自分の衣類をとって、彼女も自室へ入っていった。
◇ ◇ ◇
華美は早くも着替えを終え、リビングへ戻ったのだが、涼はいっこうに出てくる気配がない。
ただ待っているというのもありだったが、おもむろに立ち上がり、洗面所へ向かった。そして、ヘアゴムを手に取り、髪の毛を後ろでまとめ、ポニーテールを作ってみる。
≪涼くんってどんな髪型が好きなんだろう、、≫
頭によぎった考えに、華美は手を止める。彼女はなぜこんなことを考えてしまったのかよく分からなかったようだ、、
まぁ、心当たりがないわけだはなさそうだが、、
◇ ◇ ◇
「華美、結構時間かかっちま、、」
やっとの思いで服装を決め、部屋から出てきた涼の目には純白のワンピースを着た、ポニーテールの美少女が映り、言葉を失った。
昨日十分見たはずの彼女なのに、改めて容姿を整えた状態で見ると、やはり見惚れてしまうようで
≪やっぱり、俺だとどうしても見劣りするじゃねぇか≫
心のうちでそう呟いた涼の、十数分かけたファッションは紺色で綿の長ズボンに柄なし白Tという、何というか量産型ファッションである。
正直、涼の容姿は悪くない、というかどちらかというと、イケメンの部類に入るが本人に自覚はない。
「どうしたの?涼くん、、」
「いや、、何でもない」
華美の声で我に戻った涼は少し赤面し、逃げるように話をそらした
「それより、早く行くぞ、買うものいっぱいあるんだから」
「え、あ、うん」
何か露骨に話をそらしたことにより、逆に怪しまれたが。そこを突っつけるほど華美は遠慮を捨てきれていない。
涼は部屋の鍵を閉め、マンションのエレベータに乗り込んだ。二人の靴はまだ少し湿っていたが、空にはすでに青が溶けだしていた。
◇ ◇ ◇
電車に揺られ、炎天の下を十数分歩き、二人がたどり着いたのは大型ショッピングセンターである。
大きめの自動ドアを通り抜け、クーラーの効いた施設内。
「あ~、涼しい」
「うん、涼しいね」
二人は何を買いに行くかより、クーラーの涼しさに感謝した。
そして、華美は周りを見回し目を輝かせていた。
それもそのはず、彼女はショッピングセンターと無縁の生活を送ってきたのだから。それに彼女はこういうのに強いあこがれを持っていた。
「よし、じゃあ行くか」
「早く行こ!」
「お、おう、、」
やけに高い華美のテンションに涼は歩き回る覚悟を決めた。
「まぁ、とりあえず服買いに行くか」
「うん!」
そう言って二人は大手衣類量販店へやってきた。若者向けの服を売っており、他の店に比べ比較的安価なため、涼もよくお世話になっていた。何なら今日のコーデはすべてこの店で揃えた物であるである。
今までの華美の衣料事情は知らないが、楽しそうに服を選んでいるのを見て、なぜか涼のほうまで楽しくなってきていた。
しかし、数十分経ってもいっこうに服を決めようとしない天川に疑問を抱き
「どうした?」
「いや、なんか試着してみたいんだけど、どうすればいいかあまりわからなくて、、」
「そんなことかよ。まぁ、いいや。ほら試着行くぞ、着たい服カゴの中入れてついてこい」
「うん!」
そういって、上下合わせて六着をカゴに入れ試着室へ向かった。
幸い空いていて、ほとんど待つことなく試着室へ入れた。
「じゃあ、待っててね」
「あぁ、別にいいが、俺ファッションセンスゼロだぞ?」
「それでもいいの」
そう言ってカーテンを閉めた華美を、涼は壁にもたれ、メッセージに返信しながら彼女を待った。
「涼くん、どうかな?」
その声とともに、カーテンが開き、スマホから移した涼の目の前には、真ん中に大きくロゴが描かれている白を基調にしたTシャツを着て、膝の少し下までを覆う水色と白のストライプ柄のスカートを履いた華美がいた
「、、、うん、似合ってると思う」
女子どころか誰かの服装を一緒に選んだことなど無い涼は、妙に緊張してしまい、こう答えるのが精一杯だった。
こんな返答でも、華美の方も嬉そうにしていた。
まぁ、自分で服を選んで他人に見てもらうのは彼女にとって初めてのことなのだから当然だろう
「じゃあ次ね」
と言ってカーテンを閉める華美。そしてデニム生地のショートパンツに、少しお腹と肩が露出するタイプの黒色のトップスを合わせてみた。
電車の中やショッピングセンターの中で、おそらく同年代である女子がこういう服装をしていたので着てみたのだが、ふと冷静になって鏡で自分を見てみると、なかなかにカーテンを開けようとは思えず、
結局は断念し、まだ着ていなかったデニム生地のゆったりとしたズボンに薄い水色にひらひらのついたトップスを合わせ、カーテンを開けた。
「どうかな?」
「結構いいんじゃないか?似合ってるよ」
涼は先ほどとほぼ変わらない言葉を華美にかける、それを受けた彼女は
《とりあえず、この分買おっかな、、、あのショー、、、》
途中で自分のあの大胆な服装を思い出し、自分で恥ずかしくなり、カーテンを閉めた。
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