第六話

 無事(?)に同居が決まった二人であるが現在、改めてその意味を認識してしまい、二人とも頬を赤くし硬直していた。

 お互いに思春期真っただ中の異性が一つ屋根の下、一線を越すには十分な条件だ。

 それを意識してしまえばこうならないわけがない。


 まぁ、二人ともこのままでいるのはあまり良くないという事が分かっているので、話しかけようともするのだが、恥ずかしくなってしまい、なにも発せられない。ただ時計の時間が過ぎていく音だけが部屋に響き渡っていた。


 華美がある程度心を決めたのか、声を発する


「ありがとうね、涼くん」


「まぁ、俺あんま何もしてないけど」


「もう、、また、そんなこと言う、、」


 華美はちょっと頬を膨らまし、すねるように言った。それを見た涼は、そっと目をそらした、なぜならその姿があまりに可愛かったからだ。


≪今日から、こいつと同居するんだよな、、≫


 しかし、そんな涼の内心も知らない華美は、なぜ顔をそらされたのか分からなかったので


「涼くん、なんで顔そらしたの?」


「いや、、あの、、それは、、」


『あなたが可愛すぎたからです』と言えるわけがなく、ただ顔を元に戻し話をそらすことしかできなかった。


「それより、母さんに言われた通り、明日は買い物だな。」


「うん、そうだね」


 二人ともすでに疲労で頭があまり回らなくなっていた、ただ眠たいだけの空気のなか、話も徐々に続かなくなってくる。

 そして、最終的に二人とも椅子に座ったまま寝てしまった。


◇  ◇  ◇


 先に目が覚めたのは、涼の方だった。

 時計を見ると、時刻は六時を回っていた。あれから一時間ほど寝たのだろう。華美を起こそうとしたが、無防備かつ安心した寝顔をみて


「まぁ、もう少し寝かしておくか。」


 小声でそう言いながら、部屋からタオルケットを持ってきて、肩にかけた。

 涼はキッチンへ行き、おもむろに料理を作り始めた。


 十数分して、キッチンから何かを焼く音で華美は目を覚ました。

 

「華美、起きたか」


 そう言う涼は、なぜか苦笑いであった。華美の鼻にも何やら焦げ臭いような匂いが漂ってきた。


「涼くん、どうしたの?」


「いや、、、なんか飯でも作ろうかなと、、」


 涼の目は上上下下左右左右(?)に目を泳がせている。華美が何事かとキッチンを覗くと、そこには、フライパンの上に『炭』があった。

 

「涼くん、、私が作ろうか?」


「いや、、、うん、、たのんだ」


 涼は大人しくキッチンを明け渡した。


 ◇  ◇  ◇


「いただきます」


 そう言って涼は料理を口に運ぶ。華美はそれを少し緊張した面持ちで見ていた。


「うまい」


 華美が作ったのは簡単に作れる野菜炒めだったが、シンプルだからこそ腕の良さが出ていた。

 華美と涼のリアクションを見て、安心したように


「いただきます」


と言って、自分も食べ始めた。


 結構な量があった野菜炒めは一瞬で二人の胃袋に消えた。


「「ごちそうさまでした」」


「いや、本当においしかった、ありがとう」


「どういたしまして」


 そう言いながら、食器を持っていき、そのまま洗い出す涼。華美はそれも自分の仕事だと思ったようで


「私がやるよ」


 しかし、涼も全部やってもらうのは気が引けるようで


「いや、いいよ。全部やってもらうのは気が引ける」


「でも、、」


「じゃあ、あとで一緒に暮らすためのルール決めるから考えておいてくれ」


「、、、わかった」


 華美はやはり申し訳そうな顔になっていた。だけど、しっかりと考えているようで真面目な部分が堂々と出ていた。


 少しして、洗い物を終えた涼がテーブルへ戻ってきた。


「ごめんなさい、洗い物させちゃって」


「いや、別に、ご飯作ってもらったし。母さんのあれは華美のための口実というか、あれだよ、気にするなってことだと思うよ。」


「そう?」


「あぁ、というか、全部やってもらうのはこっちが申し訳なくなってくる」


「まぁ、そういう事なら、、」

 

「とりあえず、それを含めてのルールだし、決めていくか」


「うん、そうする」


 ◇  ◇  ◇


「とりあえず、一回まとめるぞ」


 あれから約三十分。やっと、まとまったらしく、涼はスマホのメモアプリに書き記したものを読み上げる


「・料理、洗濯は華美がする、洗い物、お風呂掃除は涼がする

 ・その他家事は空いているほうがする

 ・お互いにあまり気を遣わない  

でいいんだよな?」


 三つしかないのはそれで十分だと思ったのと、なにかあったら後々追加していくという感じで合意された。


「うん、改めてよろしくね」


「あぁ、よろしく」


 互いに頭を下げて、そう言った後そのまま会話を続けた。


「明日買い物に行くわけなんだが、何か買うべきものとかあるか?服とか以外に」


「うーん、特にないかな」


「まぁ、欲しいものあったら遠慮なく言えよ、ある程度は買うから。俺も母さんからそうしろって言われてるし」


 そう言いながら、涼は母とのトーク画面を見せる、そこにはしっかりそれと同義のメッセージが届いていた。


「じゃあ、その言葉に甘えさせてもらうね」


 そう言った華美は大きなあくびをした。それを見た涼も眠気を覚え。


「まぁ、今日はもう寝るとするか」


「そうだね」


 二人して寝る準備を済ませ、涼は自室、華美は恵との話し合いで決めた彼女の部屋へ入っていった。

 まぁ、天川の部屋と言っても、ただ来客用の布団が敷いてあるだけだが、、


「おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 それから数分もしないうちに、真っ暗な部屋の中、二人は静かな寝息を立てていた。


 こうして、二人が出会い、同居が始まった、忙しき一日が幕をとじた。

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