第五話
「私、お金ないから、、」
「まぁ、そうだよな」
華美の表情から先ほどの『野宿』といったのは冗談ではないと分かっていた涼は、そう呟いて、頭を抱えた。
その時、机の上に置いた涼のスマホが電子音とともに震えた
『着信中 母』
涼はスマホの画面を覗くや否や、めんどくさそうな表情をして、スマホを手に取る。そして、華美に少し静かにしていてくれと伝え、自分の部屋へ入って、やっと電話に出た。
「なんだよ、母さん」
涼は平然を演じているが、話し方はわずかながらにぎこちなく、いつもの1.2倍速になっていた。
『一人暮らししてる息子を心配して何か悪い?それより、あんた今何してるの?』
そのぎこちなさに気付かない氷翠母ではない。何かあると確信し涼に聞いた
「ふ、ふつうに家で、、ゲームしてた、、、」
『そう?にしては慌ててるみたいだけど』
涼は親をなんだと思っているのか、見え透けた嘘をついて、即座にバレた。そのせいで、より怪しまれることになるのだが、、
そこから数分間、質問攻めを何とか受け流していて、そろそろ、母も諦めようとしていたときだった。
「キャッ」
リビングの方から少女の短い悲鳴が聞こえた、それが涼の耳に届いた瞬間、彼は自室を飛び出し、華美の方へ行く。
「華美、大丈夫か?」
「涼くん、、く、、蜘蛛」
そう言った華美の視線の先には、確かに一匹の小さめの蜘蛛がいた。
「あぁ、なんだ、蜘蛛か、、」
なにがあったかと心配して、電話をほっぽり出して駆けつけてきた涼は『なんだそんなことか』と思いながら、ティッシュで蜘蛛を掴み、ベランダから雨空の下に心の中で「森へおかえり」と言ってから、投げ捨てた。
「ほら、もう大丈夫だから」
「あ、ありがとう」
一連の行動が終わり机に戻ると、先ほどとっさに置いたスマホから声が聞こえる。その時、涼は背中に冷汗がツゥーと流れるのが分かった。
『涼、とりあえず、ビデオ通話に変えようか』
「、、、あ、、はい」
画面越しでも感じれるほどの母からの圧を受けなお、ごまかそうとするほど涼は肝が据わってるわけではないので、素直に答えるしかなかった。
一度電話が切れ、再度スマホから着信音が流れる。しかし先ほどとは違いビデオ通話であった。
涼は過去一電話に出たくないと思ったが、ここできったら、家の中で自身の人権がなくなるのが目に見えていたため。即座に応答ボタンを押した。
『えーと、はなびちゃんだっけ、、涼の横来てくれる』
先ほどからずっと涼の方を向いて頭を下げて、申し訳なさそうにしていた華美は、呼び出しにおとなしく応じ、彼の横の席に腰を掛けた。
その時、涼だけが聞こえるように「ごめんなさい」と謝った。
『えーと、まずは自己紹介しようか、私は君の横にいる奴の母、
「は、はい、、はじめまして、、私は『
華美は自分の名前を言うや否や、まず氷翠母改め恵に画面越しで深々と頭を下げた。
『別に気にしなくていいよ、それより、涼とはどんな関係?』
そう言いながら、何やらニヤニヤしている母に、涼は呆れ、また面倒事が増えたとでも言いそうな表情をしていた。
「と、友達です」
華美が答えに詰まったのを、少し怪しく思い続けて質問を投げかける。
『本当?お風呂上がりで涼のジャージ着てるし、そうは思えないけど、、』
「急に雨が降ってきて、それでシャワー貸したんだよ」
そう言われ答えに詰まった華美に、涼は助け舟を出した。
『ふーん、まぁ、二人の馴れ初めが聞きたいな』
母の中ではもう少しからかってやろうという魂胆だろうと、涼は呆れた。友達と言っていたのを聞いてなお、こう言ってくるのだから。
「だから、違うって、、、」
「ちがいますぅ、、」
すでに力尽きかけた涼は力なく突っ込み、華美は顔を赤にして否定した。それを見た恵は、
≪なんか面白いことになってそうね≫
とりあえずは友達という扱いで、出会いからを聞くことにした。
『まぁ、いいわ。嘘はついてなさそうだし。それじゃあどうやって友達になったかが知りたいかな』
涼と華美はくたくたになっている頭で「「まぁ、それぐらいなら」」と思ったのだろう、今日の出来事を話し始めた。
◇ ◇ ◇
『そう、、だったのね、、、』
二人の出会いと、華美の話を聞いた氷翠母は、先ほどまでの表情はどこへやら、彼女の身を案じるような表情になっていた。
やはりというか、追い出された理由は言いたくないようで、恵も変に詮索はしなかった。
『それで、これからどうするつもりなの?』
「え、、っと、野宿しながら、、バイトでも、、」
涼の頭を抱えさせたこの発言、恵も一度驚いたような表情を見せたあと、少し考えた様子を見せ
『じゃあ、ここに住む?』
華美が追い出されたのは彼女自身のせいではないと判断した恵は、とんでもない提案をした。それを画面越しに聞いた二人はまず固まり
「「え?」」
二人の驚くような声がマンションの一室に響き渡った。
『あれ、、いやだった?』
「いや、そういうわけじゃ、、ただ、そこまでお世話になるわけには、、」
まず、そこ以上にツッコむべき部分があるはずだが、、少しずれているのか、ある程度パニックになっていて、その点から目をそらしているだけか、、
華美の性格上、ただお世話になり続けるというのもポリシーに反するらしく、そう言ったのだが、恵もその点にも配慮しているようで
「そうね、、だったら、住み込みで働いてもらおうかしら」
涼と華美の頭の中に『?』が浮かんできた。それも気にせず恵は続ける。
『涼の面倒を見てほしいのよね、涼って結構だらしない生活送ってるから』
「ちょ、おい、母さん」
涼が要らないこと言うなという事なのかツッコみを入れるが
『でも事実だから仕方ないでしょ』
という母の一言で撃沈した
「え、でもそんなんでいいんですか?」
『いいのよ、それより涼をしっかり頼むわよ』
「は、はい、頑張ります」
華美もまだ気が引けているが、厚意に甘えることにした。
こうして涼と華美の同居が決まった。
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