第四話
あれから何分が立っただろうか
華美が落ち着き、息を整えたところで、涼は彼女から身を離した。そして、自分の衝動的で大胆な行動、発言に羞恥心を抑えきれなくなり、華美から目をそらし
「ど、、、どうだ?落ち着いたか?」
「う、、うん、ありがとう、、」
華美も自分のされたことと自分の情けない姿が遅れながらに恥じらいが追い付いてきたようで、涼の方を見れなくなっていた。
お互いの羞恥心が限界突破したことによって、これまでになく長い沈黙が訪れた。
今回に限ってはどちらからも声をかけようとしないため、時間がどんどん伸びていく。そして、この時間が延びれば伸びるほど、声をかけずらくなっていく。
このままいくと今日という一日が終わるまで、このままなんじゃないかとも思えた沈黙の時間は、思わぬ夕立によって終わりを迎えた。
涼の赤い頬に落ちた一滴を皮切りに、雨が地面にポツポツと降り出した。
空を見ると、先ほどまでの青い空はどこへ行ったのか、どんよりとした雲が空一面を埋め尽くしていた。
「夕立だな、、そろそろ帰らねぇとな、、」
涼はそう呟きながら、すでに汗でびしょびしょに濡れている華美の方を見て、何気なく聞いた
「なぁ、華美って家この近くか?」
涼は突然の雨に少々焦っていて、さっきの会話で華美が言っていたことが、頭に浮かばなかった。ただ、『傘を渡してやるか』という気持ちで聞いただけである。
「わ、わたし、、帰る、ところ、、、ない」
だから、華美が今日の空模様みたく、急に絶望したような表情になり、この言葉を返してきたとき、涼は内心やらかしたと思った。
まぁ、そんなことをしているうちに、雨が地面を叩く音はどんどん大きいものになっているのだが
「とりあえず、俺の家行くぞ、話はそこでする」
「、、、うん、、そうさてもらうね、、、」
華美は、このびしょ濡れの服で、なおかつ初対面の相手の家に上がるのは気が引けてしまい、一度断ろうとした。
だが、断っても意味がないことを彼女はやっと合わせることのできた彼の目を見て悟った。彼の目はただ優しさにあふれていたのだ。
◇ ◇ ◇
二人で全力で走り、五分足らずで涼の住むマンションへ駆け込んだ。
そして、もう、水と言っても過言ではないほどの水分を含んだ服で、ちょっと申し訳ない気持ちになりながらエレベーターで一気に階層を上がり、涼は七〇一号室のドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。
涼はそのまま家の中に入っていったが、華美はまだ遠慮しているようだ。しかし、涼にはなぜは入ってこないのか分からず
「ん?入っていいぞ」
「、、でも、、私ビショビショで、、」
「いいだろ、別に。俺もめっちゃ濡れてるし、、、、あ、もしや、、、男の人の家に入るの嫌だった?」
改めて考えると、女子が男子の家に入るというのはそれ相応の覚悟は持っておかなければならないことである。しかも、涼も華美も思春期真っただ中である。
まぁ、涼にそんなことできるほどの度胸もないし、何なら下心よりも彼女の助けになりたいということを優先するだろうから、確率で言えばほぼないと言って差し支えはない。
華美もまだ出会って数時間しか経っていないわけだが、涼がそういう人でないというのは分かっている。しかし、改めて意識すると、緊張せざるおえないものらしい。
「まぁ、やっぱ嫌だよな、、異性の家に入るってのは、まぁ、一応今日初対面なわけだし、、」
「別に、、嫌じゃない、、、し、涼くんは、、そんな、、ことしないと、、思うから」
「お、おう、、、」
顔を真っ赤にして言う彼女に、心臓が跳ね上がった涼だったが、華美がくしゃみをしたので、二人で家の中へ入っていった。
◇ ◇ ◇
「シャワー、、ありがとうね」
「あぁ、じゃあ、まぁ、適当にくつろいどいてくれ」
華美は涼から借りたジャージを着て、リビングへ入ってきた。そして、交代するかのように風呂場へ向かう涼。
一人リビングに取り残された華美は変に人の部屋を触るのも失礼な気がして、ただダイニングテーブルに座って、部屋を見まわしていた
数分もたたずして、涼はリビングへ戻ってきた。そして、興味深そうに部屋を見回す華美をみた。
「あの、、、そんなにみられるのはなんか恥ずかしいというか、、、」
「あ、、ごめんなさい」
「いや、別にそんなあやまらなくてもいいけど、、」
そう言いながら、冷蔵庫から麦茶、棚からコップを二つ取って、華美の正面の席に座った。
「改めて、ありがとう、、、いろいろと助けてもらちゃって」
「別に気にしなくていいよ、ただ俺が放っておけなかっただけだし」
そう言い、涼は麦茶を一口飲み、続ける
「でだ、これからどうするつもりだ?」
「うーん、野宿とかは考えてたけど、、、」
彼女に聞いてから、麦茶を口に含んでいた涼は、華美が真面目そうにそう言うので、ついお茶を吹き出しそうになった。だが、そんなみすぼらしい姿を見せるわけにもいかず何とか吹き出すことは防いだが、そのせいで鼻に麦茶が侵入し、急いでティッシュで鼻をかんだ。
「え、大丈夫?」
「あ、あぁ、大丈夫だ、、、それより、よりにもよってなんで野宿なんだ?」
「だって、、、私お金ないから、、」
彼女は俯きながら後ろめたさの残ったような声で答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます