第2話

 それを見た瞬間、小宮山の表情が変わった。


「こ、これは、一体……」


 驚かざるを得なかった。いや、驚かない方がおかしい。


 写真に写っていたのは、小宮山だった。


 場所はいつも通勤する際に乗り換えのために利用している駅のエスカレーターだ。写真の中の小宮山は右手に、スマホを持っている。そして、彼の前には、一人の女子高校生の姿。小宮山の右手は高校生のスカートの中に伸びていた。


「驚いた。まさか、営業部のエースが毎朝、毎朝、こうしてターゲットを捉えては、こんなことをしていたなんて」


 嘲る声に、背筋が寒くなった。


 小宮山は、商社の営業マンとして、毎日忙しく働いている。ライバル意識が高く、常に周りから頭一つ抜けていないと気が済まない。外回りに出た際は、数えきれない会社に飛び込み営業をかけては、巧みな話術と愛嬌を活かし、自分自身の成績に見事変えてきた。その結果、小宮山は現在、エリートコースの一番先頭を走っている。


 しかし、そんな彼に裏の顔があった。


 それが、盗撮魔だ。


 毎朝、駅の改札やホームで良い女性を見つけると、そのあとを追いかけ、エスカレーターや階段に差し掛かった際に、ビデオモードにしたスマホをスカートの中に差し込み、女性が履いている下着を盗撮する。こうすることで、カメラモードとは違い、シャッター音が鳴らないので、女性、そして周りから気付かれない。(さらに動画の方が、彼の興奮が増すことも理由の一つだった)この手口で、小宮山は、数えきれない程の数の犯行を重ねた。


 絶対にバレないと思っていたのに。


「これ撮影してどうしてるの?」

「……」

「答えなさいよ」

「……ひとりで、こっそりと……」

 呆れた、由奈は冷めた目線を小宮山に浴びせる。「まさか、我が社のエリートサラリーマン、小宮山有高が、毎朝盗撮を繰り返して、それを見て、ひとりで慰めている変態だったとは。本当に呆れたわ」


「お、お願いです。このことは、どうか内密にしていただけないでしょうか?」

 小宮山の口調が切羽詰まったものになった。冷凍庫から取り出した氷ぐらい冷たい冷や汗が、背中を伝った。


 このことが公になれば、会社はおろか社会から追い出されてしまう。折角、今までに積み上げて来たものすべてが、小宮山の前から崩れて消えてしまう。彼は額をテーブルに擦り付けた。


「この通り」


 頭の上から由奈の笑い声が聞こえる。手の叩く音。そして、

「別にそんなつもりじゃないわ」

 その言葉に、小宮山は思わず顔を上げた。「警察には届けるつもりは、これっぽっちもない」

「本当、ですか……」

「ただし」

 希望の光が見えたような表情をしている盗撮魔の顔の前に、由奈は利き手の人差し指を上に差し「1」を作った。「あなたが、条件を飲めば、ね」

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