第29話 猫のいる場所

目が覚めた、気持ちの良い朝だ。


(ん?朝?)


「どれだけ寝ていたんだ…」


猫が目覚めると、天使の姿で静奈を抱きしめて寝ていた。

夜になり、願いが自動で発動したのだろう。


直ぐに猫の姿に戻って、静奈が起きるまで顔の前に座って待つ。

目を開ければ猫と目が合うだろう。


「にゃ。」

「猫ちゃん、おはよぅ…」


言葉はふにゃふにゃ、間違いなく寝ぼけている。


「「……」」


しばらく見つめあった後、頭が動き始めたのか段々と現状を理解し驚いた表情に変わった。


「帰ってきてくれたの?!」

「にゃん。」


猫の視点からだと天使として会ってるし、猫と過ごしたいと言ったのも知っている。


だが、静奈は天使と猫が同一の存在であると知らない。

最後に見た猫は落ち込んだ様子でトボトボと歩いて行く姿、嫌われたと誤解してもおかしくない。


「許してくれるの?」

「にゃ?」


(何を?)


謝られる事は思い浮かばない。

猫と静奈の間に、ちょっとしたすれ違いが発生していた。


(よくわからないけど、ずっと一緒だよ?)


「にゃん。」

「…!」


猫から近づき撫でられにいく。

許してくれたと思ったのだろう、目に薄らと涙を浮かべながら猫を抱き上げた。


「私ね、生きていられるのは長くないって思ってたの。

この立場になった時に説明されてね。私しかあの結界を維持できる人がいなかったし、どんなに遅くても後1年で展開しないと行かなかったからさ。」


猫へと話し出す。

伝わっていないと思っていても、ちゃんと猫に向けて話している。


「あの結界を展開…えっと私が座り込んだ時、命が一気に減ったのがわかって、それが事実なんだって理解したの。」


(あの結界、2度と使えないように絶対壊そう。)


「もう猫ちゃんとお別れなんだってわかったの。

私が居なくなったあとに猫ちゃんがどうなるか考えて、もしかしたら此処も危ないかもしれない、そう思ったらどんな形でも逃げて欲しかった。」


そう話したあと何回か深呼吸をした。

気持ちの整理をして、これからの事を話そうと考えているのだろう。


やがて覚悟が決まったのか、無理矢理テンションを高め、声を出す。


「あー!

今話した事、全部言い訳みたいじゃん!

もう猫ちゃんに伝えたい事だけ言う、これからも私と一緒に暮らして欲しい!家族になって欲しい!」


かなりの早口だったが全てちゃんと聞き取った。


「にゃnーー」

「もう諦めたりしない!

最後まで一緒にいて欲しい!」


もちろん、と伝えるために鳴こうとするのを遮られる。


「だから…!」

「にゃん。」


前脚を静奈の頬っぺたにくっ付けて話を止める。


「にゃ〜。」


できる限り優しく鳴く。

伝わったのだろう、その時のせ静奈は共に過ごしてきた中でも1番の笑顔だった。


「ありがとう!」


ピー


「「?」」


素晴らしい雰囲気の中、唐突に台無しにする音が響く。

その音は朝のアラームに似ていたがそこまで大きく無く、いつもご飯を頼んでいる箱から聞こえていた。


「なんだろ?」


開けて中を確認してみれば、頼んでいないのにご飯が届いていた。


「うん、冷たい…」

「にゃあ…」


いつもと違うのはパンが増えてた事だけ。


「なんだったんだろ?」


(さぁ?

まぁ、量を増やした事は褒めてもいいかも。)


「取り敢えず食べよっか!」

「にゃ。」


猫が来てから頻繁に頼むようになった、ベーコンセット。もしかしたら気を利かせた人がいたのかもしれないが、あまり興味は無いようだ。


「そうだ!

猫ちゃんに名前を付けようと思います!」


パチパチ


自ら拍手をしながら猫の名前を発表します!とハイテンション。


別れが近いと感じていた静奈も、猫と同じように一歩距離を取っていた。死が怖くなってしまうから。

それが猫の名前を決めなかった理由、猫とは程よく付き合あえればと考えていたのだ。


静奈も一歩踏み出したのだ。


(名前か。

天使も名前を付けてもらえって言ってたな。)


「大福ちゃん!」

「にゃ?!」


名前はまさかの大福。

猫ももちろん知っている、大福は白くて中に餡子が入った和菓子だったはず。


「に、にゃ〜…」

「むむ、嫌がってるね?」


(大福はさすがに…)


可愛いとは思うが、意味と元を知ってる猫からすると微妙。


「うーん…

わたあめちゃん?」

「……」


(食べ物から離れよ?)


「じゃあ…

フワフワちゃん?」


静奈はネーミングセンスが皆無であった。

軽く現実逃避している猫だが、取り敢えず嫌な名前は拒否しておく。


「白い、ふわふわ、検索。」


最終的には検索サイトを頼り始めた。


「スピリチュアル?

うーん、スピ、ピリ…無いな。」


関連用語から探そうとしている。


「リエル!リエルにしよう!」

「にゃ!」


(人名っぽいけど、それでいい!)


さっきまでとは全く違う、かなり良さげな名前。

猫はすぐに飛びつく。


「リエルでいいの?」

「にゃー!にゃー!」

「わかった、よろしくね【リエル】」


明確な繋がりを感じた。

願いよりも更に強固で、魂が直接繋がったような感覚。


(吸われる〜!)


実際には吸われてる訳じゃ無く、器が一つになる際に起こる力の移譲。


主と眷属の関係、これからは全てを共有し最後の時は共に滅ぶ。


「なんか、体が軽い。」

「にゃ〜。」


今この瞬間、静奈は猫と似た存在に変わった。

人の身でありながら、不老の存在へ。

人類が理解できる様にいえば聖人となった。


「リエル、大好き。」

「にゃん。」


(私もだ。)


これからも多くの悪意が2人を襲う、

だがお互いに勇気を出し歩み寄った2人は絶対に大丈夫。


どんな困難が襲ってきても乗り越えるだろう。




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こんにちは作者のノツノノです。

今回の作品である

『猫天使 白い翼を食べたら不思議な事ができるようになりました』

はこれにて完結となります。


フォロー、応援、★レビューをしてくれた方々

本当にありがとうございます!


書き切った感想、反省点などは後日近状ノートに纏めます。


今後は少しだけのオマケとキャラ設定を投稿し完結を付ける予定です。

何かキッカケがあれば続編を書くかもしれません。


長くなりましたが最後にもう一度、

応援してくださり本当にありがとうございました。


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