第28話 希望

悪魔が入るのと同時に渦は消えてしまった。

範囲を広くして悪魔を探すが見当たらない、少なくとも人が住む場所には居ないようだ。


「これは?」


落ちていた魔法陣の描かれた紙。

間違いない、異形を召喚する事ができる効果を持っている。


「【燃えよ】」


紙が勢いよく燃えるのを確認、魔法陣が1つだけとは思えないが取り敢えずはこれでいいだろう。


ただ問題が、


「あ、あの!」

「……」


近づいてきていた4人の人間。

地下室のような場所にいた事は知っていたが、まさか出てきて話しかけてくるとは思わなかった。


「なんだ。」

「助けてくれて、ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」


泣きながら感謝する4人。

それを見ても特に思う事は無いが、1つ知識の検証ができた。


(なるほど、これが信仰か。)


願いを叶える事で手に入る白オーラとは違う、力の元。

人の信仰心で増えるらしいが基本的には雀の涙ほどしか無く、今回実感できたのも面と向かってお礼を言われたからだろう。


「よかったな。」


ずっと帰りたかった猫は一言だけ話したあと飛び立つ。


残された人間は飛んでいった方向に祈り続けた。

この場にいた全員は詳しい作法なんて知らない、ただ頭を下げ続けたのだった。


静奈の居る場所へと飛んでいる最中、ふと結界の護衛に残していった光の球を思い出した。


「回収した方がいいな。」


知識通りなら、自動で消えるように作らなければ永遠に猫ら力を吸い取られてしまう。


だがこの判断を猫は後悔した。


「「「天使様ぁぁぁぁ!!」」」


(うるさ…)


結界の近くに降りた猫は大歓声を浴びていた。

不機嫌そうな表情だが、猫を人類の救世主と疑わない人々の中でそれに気づく者はいなかった。


「天使様、この度は我等を救っていただき本当にありがとうございます。

この地区を代表して感謝申し上げます!」

「そうか……」


(帰らせろよ!)


どうやら光の玉は猫の帰ってこいという命令を無視してまで異形の亡骸処理をしているらしく、ただ人間に囲まれに来ただけになってしまった。


指示を無視するのは、あの魔法にとって最初の命令の方が優先順位が高いから。

最初の命令は異形から守れ、どうやら異形の部分が強く、残っている異形の亡骸から発せられる毒からも守るという判定をされている。


「本当なら今すぐにでも祝いの宴を開催したいのですが、被害が大きいため出来ません。

申し訳ありません。」

「いや、別に良い。

私はもう戻る。」


(もうこんなところに居られるか!)


猫にとって、笑みを浮かべながら近づいてくる人間の殆どが静奈を虐めた存在としか思えない。

本当なら助ける気もなかった、仕方なく助けたにすぎない。


多くの信仰を向けてはきているが、正直好ましくない。


「最後に!

貴方様はこれからも人々を見守って貰えますか?!」

「…お前達次第だ。」


全ての知識を手に入れた猫は、この世界を天使達がどれほどの覚悟で守ってきたのかも知った。


静奈を傷つけた事は許せないが悪魔のせいだった可能性もある。全てを許す訳ではないが様子を見てもいいかなと思った。

今は居ない天使へ猫からの恩返し。


「では、もういく。」

「本当に感謝申し上げます!」


触れながら光の玉への力の移動を止める、中にある分を使い切ったら勝手に消滅するように変えておく。

そして再び飛び立つと人々は大歓声をあげ、各々感謝を述べていた。


異形の嫌な気配が消えて、数段軽くなったようもに感じる空を気持ち良く飛んで帰る。


「やっと帰って来れた。」


神社と一部の木々は残念ながら荒れ果ててしまったが、いつも過ごしていた家は無事だった。

空から見て、初めて気づいた。


周辺に飛び散る黒い液体を軽く消したあと、穏やかな表情で寝ていた静奈を起こさないように優しく抱き上げて運ぶ。

結界を維持してるからか少しずつ弱っているのがわかるが、猫の力で直ぐに治療しているから問題ない。


(あの結界は2度と作れないようにするべきだな。)


展開している時に壊すとその反動が静奈へと向かってしまうのに加えて、あの結界を使用した時点で1人の犠牲は確定されている。


(そんな事はさせないが。)


繋がりを切れば静奈の命が減る事はない。


天使の技術があったからこそ出来た。

もし無ければ繋がりを切る事は出来ず、猫は静奈が弱っていくところを見ている事しか出来なかっただろう。


「ずっと一緒だ…」


また天使へと恩が増えてしまった。


2人の部屋に戻り、布団へと寝かせる。

猫も天使の姿から猫の体へと戻って布団へと入り込んだ。


「ん、猫ちゃん…」

「にゃー、ぁ?」


起きたのかと思ったら寝言だった。

腕に猫が触れると、腕が動き抱きしめてきた。


(ふふ…)


無意識に一歩距離を取っていたのだろう、それが無くなって自由に動けるようになったり、嬉しいなどの感情もダイレクトに感じられるようになった。

これからは心身共に甘える事もできるし、力を自由に静奈へと使える。


その事がとても安心する。


『よかったね。』


眠りに落ちる瞬間、

今は居ないはずの天使、その優しい声が聞こえた気がした。

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