第27話 殲滅

大きすぎる喜びの感情を隠し、平静をなんとか保つ。


「そうか…

願いを叶えよう。」


弱ってしまっている静奈を治療し、新しく生み出した布団の上へと寝かす。


「では行ってくる。」


額にキスをして、飛び立つ。

願いは『猫ちゃんと一緒にいたい』天使ではなく猫として共に居るなら此処を守らねばならない。

それが静奈を虐げた奴等を助ける事に繋がるとしても。


「ふふふ、あはは!」


とてもいい気分だ。

今まで生きていた中で最高、それも自分でも無意識のうちに篭っていた殻から一歩踏み出した直後。


頭の中に戦い方が浮かぶ、

剣、槍、弓、斧、銃、刀、魔法や物理法則を無視した力の正しい使い方まである。


しかもそれだけではなかった。

異形の情報、悪魔の存在、

世界の現状、神の存在、

この世界のありとあらゆる情報が理解できている。


あの天使が意図して猫に教えていなかった情報だろう、天使が猫に託せると判断して全てを解放したのだ。


「あそこか!」


少しだけ静奈の力を感じる半透明の結界、そこには異形が群がっていた。


パチン!


指を鳴らしバスケットボール程の光の球を複数出現させた。


「あそこを異形から守れ、近づいて来た奴は殺していい、私は異形を殲滅する。」


キラキラ キラキラ


掃除しすると結界へと向かって飛んでいった。


「さて…」


異形達がいる場所を一気に消し飛ばす事も考えたが、わずかに人間の気配がする。

地下に隠れているのだろう。


「【聖槍 顕現】

私も行こうか!」


静奈と共に過ごす為にも出来るだけ人間は生かすべきだ、余裕がなくなって静奈のご飯が届かなくなったら困るから。


カッ!


槍を持って地上に降りる。

眩い光が辺りに広がり、その光に当たった異形は消滅した。


ギリギリ動作していた重機関銃も、障害を排除しながらただ前に進み続けていた異形も全てが止まった。

そんな事は気にせず、槍を器用に使って異形を消滅させていく。


その姿はとても美しく、絶望していた人々は猫の姿に見惚れていた。


「天使様…」


その一言は誰が最初に呟いたかわからないが、一気に広がり天使様という声が響き渡っている。


「余裕だ。」


陸に上がっている異形の半分を殲滅した。


「なかなか数が多いな。」


消す事に苦労はないが此処まで大量に出現すると嫌になる。


「ん?ーー危ない。」


かなり遠く、それも異形のいない方向から矢が飛んできた。

油断してる時に直撃したらタダでは済まないレベルの攻撃だ。


「ふっ!」


槍をその方向へ向かって投げる。

猫の目では撃ってきた存在を見つけていた、眼鏡をかけ大きな弓を持った男だ。


「避けられたか。」


飛んでくる槍に何度か攻撃していたが相殺できないと悟ったのかすぐに避けた。


「ふむ、気配が見えない。」


異形と違って眼鏡の男は探知に引っ掛からなかった。


「危険だけど、どうしようもない。」


先に異形を倒し切ってから、探知に集中すれば見つけられるかもしれない。


「【聖弓 顕現】」


槍の次に出したのは弓、上半身の大きさとほぼ同じで綺麗な造形だった。


「弓は使い勝手がいいな。

多数を一気に消すことができる。」


武器を槍から弓に変えた猫は恐ろしい速度で異形を倒していく。

海までたどり着いたとき一際大きい異形が出てきたが、特に苦労する事もなかった。


「これで終わりか。」


念の為に弓で攻撃してきた男を探す、どうやら近くの小島に居るみたいだ。


視覚を強化してギリギリ見える距離、直ぐに弓を構える。


「ほう…」


向こうも弓を構えていた。


「勝負って事か。」


先に動いたのは男だった。

黒い矢を放った、その矢は猫のところに飛んでくる最中に分裂し50本まで増えている。


「【身を隠せ】」


魔法で透明になる直前に猫も矢を放つ、透明になった猫は勢いよく飛んでいく矢に捕まり男の元へと飛んでいく。


ドーン!


背後に矢が着弾し砂浜が爆発した。


猫の放った矢は、男が1メートル程横に移動することで避けられた。


「これでやられてくれれば良いのですが。」

「残念ですが、私は向こうに居ませんよ?」

「なに?!グッ!」


声を出すのと同時に拳を繰り出す。

連続で繰り出すと1発が顔に当たりメガネが割れた。


だが男もやられたままではない、足を使い石を蹴り飛ばしてくる。ほぼ垂直に放たれた石は猫の顔スレスレを飛んでいく。


「今までどこにいらしたのですか?」

「……」

「弱い人類は我々に完全に管理され、好き勝手されていたのに貴方は隠れて高みの見物でも?」


異形から聞こえていた女の声もそうだが、悪魔は勘違いをしている。

そもそも猫にとって大半の人間はどうでもいい、そんな煽りは無駄である。


「天使は戦闘中喋らないのが鉄則なのですかね?」


早く帰ろう、早く静奈に会いたい。

猫の頭はそんな言葉でいっぱい、とても話す余裕なんてなかった。


「【我が手に 光を】」


これは悪魔を削る魔法、弱らせるのではなく完全に消滅させることができる。


「それは!【開け】!」


魔法を拳に纏うと悪魔は逃げる事を選択した。

少し離れたところに渦を出現させ、その中に向かって走る。


「【我が光を 放て】!」


拳を放つと白い光が悪魔へ向かって飛んでいく。


「ぐ、がぁ…!」


左腕から左肩にかけて当たり、体勢を崩すも渦の中に逃げていった。


「逃した。」


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