第25話 決断
猫は未だに静奈の家がある不思議空間で歩いていた。
(行かないとダメなのか…)
そう、自身の感情と静奈の願いで悩んでしまっているのだ。
無意識に抵抗しているからか、どんどん白オーラが猫へ送られてくる。
「にゃ、あぁ…」
あと1歩でも踏み出せば、この不思議空間から出てしまうが、繋がりが無くなるような気がして踏み出せない。
「……!」
迷いに迷っている最中、この空間に急に嫌な物が混ざった。それはとても重く、とても苦しい、嫌悪感を強く感じる。
「な、なにが…
静奈のとこに行かないと!」
ガサガサガサ ドタッ!
「なっ!」
体から力が抜け、倒れる。
しばらくの間は力を入れることさえできなかった、なんとか立ち上がってもさっきまでの速度は出ない。
(なんでだ。
まさか、デメリット?!)
静奈の願いである『猫だけで逃げる』を破った形になる。
(動けはする、ただ…)
最悪の形でデメリットが判明した。
だが今はとにかく静奈の安全を確認しなくちゃいけない、重い体を無理矢理動かし静奈の居る神社へと走る。
「うっ…」
酷い悪臭だ。
木が倒れて、粘度の高い黒い液体がそこらじゅうに散らばっている。
(触ったらダメだ。)
直感だがそう思い、黒い液体を避けながら歩く。
「ーーー!」
ガシャーン!
「!」
神社のある方向からガラスが割れるような大きな音が聞こえた、人の物とは思えないが笑い声も聞こえている。
急がないと。
「可愛い、本当に可愛い、巫女ちゃん。」
「ぐっ、【去れ!】」
グシャ!
「体が欠けちゃったわ、お返しよ。」
「うぐ、ぅ…」
鈍い音が響いた。
静奈の声は苦しそうで、もう片方の声は楽しそうにしている。
(異形か!)
声の正体は異形だった。
だがいつも見るのとは様子が違う、大きさは変わらないが全身がドロドロと溶けている。
ギリギリ四足歩行だとわかる程度。
「もう、本当に可愛いんだから。」
「うぅ…」
「そうだ、貴方に聞きたい事があるのよ。」
(どうしよう…)
猫がどうしたらいいか迷っている間にも、2人の会話は続いていく。
「貴方が欲しかった物ってなんなの?」
「あ、う…?」
「あー難しいわね、つまり依存していた物よ。」
「い、ぞん…?」
静奈には異形の言っている物に心当たりはないようで、苦しそうにしながら必死に考えている。
「なるほど、自分でもわかってなかった系ね。
面白くない!もういいわ、なるべく長く苦しませてあげるからね♪」
黒い槍が静奈へと飛ぶ。
それを急ながらも見つめる事しかできなかった猫だったが、だんだんとスローになり最終的に全てが止まった。
飛んだ槍も、異形も、風も、全て。
それは猫も例外ではないが、思考することだけは出来る。
『これが最後になるよ。
これでいいのかな?』
猫の背後から夢でも聞いたあの声が聞こえる。
それだけではない、足音や気配まで振り向いて確認することは叶わないが絶対に後ろにいる。
『君の事は見ていた。
自由だったね、急にこんな力を手に入れて困惑もしていた。』
ガサ ガサ
ゆっくりと大回りするように歩いている。
『人の願いを叶えたね、それは天使としてとても正しい事だよ。』
『人の身体にもなったね、まぁ正確には天使だけどそこは問題じゃない。
君は人の体について、特になにも思っていなかったね。』
ガサ ガサ
『1人に肩入れしていなかったね。
主がいればそれが1番正しい、だが君には居ないね?』
声の主が見えるようになった。
その姿は猫が人の姿、天使になった時とよく似ていた。兄妹だと言われても違和感のないほど。
『さて、目の前の少女は君にとって大切な存在だ。
あの子が今ここで奴に殺されてしまったら、これからの君の生活は酷く苦しい物になるだろう。』
飛んでいる槍へと近づき話す。
『君は自分のやりたい事と、天使としての本能で鬩ぎ合い、なにもできない状態にある。
主を失った天使の嫌なところさ。』
今気づいたが目の前の天使は足元から消えている。
『さぁ、僕はもう完全に消滅する。
本当は長い間考えさせてあげたいけど、この時間を維持するのは厳しいんだ。
僕が消滅してから30秒ぐらいは保たせてあげられる、自分のやりたいようにやりなさい。』
天使はそう言って猫を優しく見つめていた。
(……)
無言の時間が過ぎる、天使は胸元まで消えかけると再び話し出した。
『一歩踏み出して仕舞えば邪魔な感情は無くなるよ。だけどそれも一時的な物、君が主と認めた存在に名前をもらうといい。』
言われてみれば猫は静奈に名前をつけてもらっていない。
『最後に、僕は君の幸福を願っているよ……』
00:59
天使が消えるのと同時に猫の前へタイマーが現れた。また時間が動き始めるまでのタイマーだろう。
00:30
(私は…)
00:10
(静奈と、一緒に…)
00:01
「まずは右脚よ!」
ガン!
静奈と槍の間に天使となった猫が立ち塞がり、槍を片手で止めていた。
「バカな…!」
「天使、様…?」
反応はそれぞれ違っていた。
片方は困惑と怒り、そして少しの恐怖
もう片方は疑問と喜び。
猫は一歩踏み出した。
踏み出すことが出来たのだ。
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