第24話 上陸

「配置に付け!急げ!

奴等が来るまでもう時間はないぞ!」


海から少し離れた場所で、悲鳴のような指示が飛び交う。

大勢の聖軍が土嚢を壁のように並べ、砂浜で穴を掘り地雷を埋めている。


「報告します!

現在2つ防衛ラインの作成を完了しました、第3の作成に入りますか?」

「いや既に新しく作る時間はないだろう、できる限り2つを補強しろ。弾薬の確認も忘れるな!」

「はっ!」


遠隔で操縦できる重機関銃をビルの窓から打ち下ろす形で設置、弾薬も大量に用意し3時間は撃ち続けることができる。

もちろん銃身の負担を考え、それほどの間撃ち続ける事はないが。


最前線は砂浜の地雷、地雷群を超えたところを遠隔の機銃とスナイパーで迎え撃つ。

中間あたりからは歩兵隊が殆ど、戦車で数を減らしながら、抜けて来た異形を歩兵で討つ。

最後は大量に爆薬を乗せた車を遠隔で突っ込ませる。


だがこれ程まで防衛を固めても防ぎ切れるとは思っていない、この作戦はあくまでも時間稼ぎ、真の目的は地区外からの応援を待つ事。


「逃げ遅れた者はいないか?」

「今の所は確認されておりません。」

「わかった。

隊の全員にシェルターの場所を共有しておくように。」

「はっ!」


なるべく時間を稼ぎ、人々がシェルターや他の地区、そして結界内へと逃げる時間を稼ぐ。それが聖軍の目的。

死ぬ覚悟も出来ているが彼等が崇拝する聖人は犠牲を良しとはしなかった、常に生き残ることに全力を尽くし人々を守る。


「そろそろだ…

総員!配置に付け!」


その一声が響き、聖軍は一斉に駆け出した。

装備の最終確認を終わらせて自らの持ち場につく、とても早く無駄のない動きだった。


「「「………」」」


誰1人として喋らない。

これはある意味では最後の戦い、負ければこの地区は滅ぼされる、勝っても再起にはとてつもない時間がかかるだろう。


「ガァァァァ…」


ついに先頭が砂浜へと足を踏み入れた。

どんどん砂浜へと上がって、


ドーン!


埋まっていた地雷が発動した。

爆発するとビー玉ほどの鉄球が周りに飛び散るようになっており、踏んだ異形は勿論、近くにいる異形達までダメージを与えている。


「スナイパー、構え!」


地上は砂埃が舞い見づらくなっているが、空からくる異形達を狙うのには問題ない。


「救援は?!」

「確認したところ、海にいる異形へ戦艦が攻撃をしているとのことです。陸への本格的な支援は3時間は掛かると…

それと地区外への避難は未だ10%に達していません。」

「わかった、引き続き情報を集めろ。

1つ目が破られるまでに2時間は稼ぎたいものだ…」


正直な話、2時間も耐える事は無理だろう。

既に砂浜へ埋めた地雷は3分の1消費したにも関わらず、異形の進行速度は全くと言っていいほど変わらない。


「歩兵部隊、前線はどうなっている。」

『こちら歩兵部隊、現在ロケットランチャーを使用中、残り200発。』

「了解した。

残り50発になったら持ち堪えていたとしても緩やかに最終ラインまで撤退。」

『了解!』


だがイレギュラーがなければ1時間は余裕で耐えれるはず、砂浜の地雷が尽きた時点で一斉に攻撃を始める予定のため進行速度は落ちるはずだ。


気は抜けないが、隊の中には安心し始めている者達が出てき始めた。

耐えれば助かる、そう耐え切れば。


『緊急!緊急!』

「何があった?!」

『スナイパー部隊が何者かに襲われています!』

「なんだと?!」


通信では何者かと言ったつまり異形ではない、司令官が考えられる限り最悪のパターンが起きた可能性がある。


『敵は1人!

メガネをかけ男でs…うわぁぁぁ!』

『ざんねーん!2人でしたー!』


報告に割り込む形で、何かが折れる音と女の声が聞こえた。


「……!」

『もう、罠を張るなんて異形が可哀想だと思わなかったの?!

ま、その分はコイツらでチャラ、最後まで頑張ってー♪』


ブツ…


「司令官…」

「悪魔だ。

戦いの士気に関わる、悪魔出現の情報は出来る限り秘匿しろ!」

「「「はっ!」」」


人類にとって悪魔は知能の高い異形という認識。

聖人と戦い引き分けたというか話が広まっているのもあり、悪魔が現れたと情報が出回ると大幅に士気が落ちかねない。


「スナイパー部隊は全滅か?」

「報告では5つあった部隊のうち3つが壊滅したとのことです。」


スナイパーの人数が半分以下では、広すぎる戦場の空の全てをカバーできない。

補うために一部の重機関銃の場所へ変更、空に向けて設置した。


「悪魔はもう出てこないのでしょうか…?」

「奴等は遊んでいる、来ないとは言い切れないな。」

「そう、ですか…」

「だが人類には神が付いている、きっと大丈夫だ。」


そう言った司令官の顔は焦っているようにも見えた。


砂浜の地雷はもう殆ど無くなった。

戦車と重機関銃による攻撃が始まる、海からは未だに異形が途切れる事なく上陸を続けていた。


「神に愛された者を呼ぶべきでは?」

「ダメだ。

この地区に居るのは結界を維持するので精一杯だろう。」

「そうだった、1人しかいませんでしたね。」

「あぁ…」


前線では激しい戦闘が行われていた。

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