第20話 素敵な夢を見た

「もう朝か…」


昨日は本当に色々な事があった。

久しぶりに外に出たり、静奈にオムライス作ったりなど今の生活に慣れた猫にとっては新鮮な出来事だった。


猫に戻るため離れようとするが、


「やぁ…」


強くワンピースの胸元を掴まれてしまった。

安心させるように頭を撫でる。猫の料理を食べた影響なのか、シャワーを浴びていないにも関わらず髪の毛はサラサラのまま。


「大丈夫、ずっと見ているよ。」

「ん…」


(もう起きそうだから、本当に離してくれないかなぁ。)


結局静奈が離したのは目覚ましが鳴る数秒前、ギリギリ猫に戻る事ができた。


「うぅ〜…はっ!」

「!」


静奈にしては珍しい、スッキリとした目覚め。

目を瞑ってウトウトしながら座るのが毎朝の日課になっていたのだが、今日はパッチリと目を開けて髪の毛を整えてる。


「にゃ〜。」

「おはよう猫ちゃん!」


猫をぎゅっと抱きしめる。


「ご飯食べよっか!」

「にゃん。」


選ばれたのはベーコンエッグ、もう猫が選ばなくても食べたい物を理解してくれている。

すでに長く共に過ごした親友と言ってもいい。


「お、今日は早いね。」


15:00


今日は15分、最近は30分コースが殆どだったのもあり、待ち時間は半減はかなり早くなった。


「猫ちゃん、私ね素敵な夢を見たんだ。」

「にゃ?」


猫と目を合わせて話し始めた。


「夢の中でオムライスを作ってくれて、話を聞いてくれて、私を見てくれるって言ってくれた人と会う夢。」

「にゃ〜。」


(よし、やっぱり夢だと誤解してる。)


そう語る静奈の様子は昨日の絶望していたものとは違っていた。


「その人が猫ちゃんに似てたんだぁ。」

「にゃ?!」


悲しかった想いは消えていないが、今は前を向くことができている。


「ふふふ、似てるって言っても雰囲気がだよ?

優しくて、柔らかい感じがしたんだ。」

「にゃふ。」


猫と額を合わせて笑う。


そんな2人は、大きな悪意が近づいてきている事に気づいていない。


でも大丈夫だろう。

静奈は猫が大切で、

猫も静奈が大切で、

その猫は強力な力を持っているのだから、きっと乗り越える。


いや、力が無くても乗り越えるだろう。


「あ、そういえば私昨日シャワー浴びてない!

猫ちゃん、私臭わない?大丈夫かな?!」

「にゃ〜〜。」


(全然大丈夫だよ。)


急いでシャワーを浴びに行く静奈を見送ったのだった。


ーーーーー



「クソが!」


洞窟で1人の美女が苛立ちを発散させるように暴れている。

大量の黒い液体と黒い肉塊が転がり、空気は澱んでいる。


「荒れていますね。

何か失敗でもなさったのですかね?」


普通なら声を掛けることを戸惑う筈の光景を前に、美女へと声を掛けるスーツの男。

目だけは可笑しな物を見る目だ。顔は無表情でなにも感じていない様に見えるが、内心では楽しんでいるのだ。


「なぜ折れない。」

「それは、貴方が遊びたいと言った人間の巫女ですか?」

「そうだ。」


静奈の実験の際、実は男も近くに居た。

男が見る限りでは間違いなく折れていた筈。愛を貰えていなかった少女へ、偽りの希望を与え絶望に落とす手腕は流石だと感心したほど。


「私からみれば折れていたと思いますがね。」

「アレのどこがだ!

アイツにはナニカ縋るものがあったんだ、神などでは無い別のナニカだ!」


男はめんどくさそうに相手をする。


「それは残念でしたね〜。」

「ッ…!クソ!」


新しく現れた異形が、抵抗する事もできずにバラバラになる。


「ですが、巫女に縋るものが合ったと言うのは気になりますね。」

「アッ?」

「そんなに興奮すんなよ、めんどくせぇ…」


異形の黒い血ではなく、赤い血が飛び散った。

美女が男へ向かって剣を投げつけ、右腕を吹き飛ばしたのだ。


「おい、本当の事を言われて俺に当たりやがって、いい加減にしろよ?

お前は確かに強いが計画性が無さすぎる、俺の邪魔をするな。」


右腕が無くなっても平然と会話を続ける。


「私なら、計画なんて立てなくてもあんな場所滅ぼしている。」

「滅ぼすではない、収穫だ。

これだから馬鹿と仕事するのは嫌なんだ。」


この悪魔達には仲間意識など、直ぐに切れる細糸程しかない。


「は?

先にアンタを収穫してやってもいいのよ?」

「合法的に貴様をボコれる魅力的な提案だが、私は忙しいんだ。」

「!!!」


去ろうとする男の背に向かって剣を投げようとした時、何処からともなく声がした。

それは老人のような声であった。


『なにをしているのだ。』

「「!」」


今にも争い始めそうだった2人は跪いた。


『はぁ、貴様らに任せたのは間違いだったか?』

「「……」」


失望している事を隠さない声。

2人は震えながらもなにも話せない。


『仮に失敗したとして、私が納得いく説明を用意しておくように。』

「そのような事には、ならないかと…」

『……』


失態の分を取り戻したかったのだろうが逆効果だろう、男は馬鹿野郎と罵りたくなるのを我慢する。


『協力し、必ず成功させなさい。

わかりましたね?』

「「承知いたしました。」」


声の主が去った事を感じとった悪魔達は無言で立ち上がり肉塊を集め始めた。


「失敗は許されない。」

「えぇ、そうね。

ところで肉塊はこれだけで足りる?」

「倍は欲しい。」


集まっている肉塊の下には、巨大な魔法陣が怪しく光っていた。

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