猫天使 希望になる

第21話 空気が重いな…

今、猫は真っ暗な宇宙から綺麗な青い球体、地球を見ている。

最後の記憶は静奈を抱きしめて眠った所まで、つまり今見ているのは夢。


『答えろ…』


(またこの夢か…)


特定の1人と共に過ごす時間が長いと見る謎の夢。

条件は共に過ごす事だが期間はそれぞれ違う、例えば静奈と過ごした時間が1番長く、短くて一晩。


『君は、何をしたい?』


この夢は誰かに質問される夢。

何をしたい、何をやるのか、何を見たい、など猫がやりたい事を聞き出すような質問。


(何をしたい、か。)


そして大体の場合、猫は質問に答える事はできない。

それはやりたい事が分からないのでは無い、きっと心の底からやりたい事で無いと答えられないのだろう。


『その気になれば、君はなんでもできる力を持っている。

さぁ、何をしたい?』


(わかんない。)


『何をしたい?』


答えを言えば直ぐに出られるのだろう。


『何をしたい?』


答えるまで、同じ質問をされ続ける。

体感1時間経てば目が覚めるが、猫にとっては正直だるい。


早く目覚めないかなと思いつつ、地球を眺める。


『残念だ…』


この言葉が聞こえると、白い光に包まれて覚めるはず。


『厄災が近づいてきている。』


だけど今回は少しだけ違った。


『自分の心がわからねば

きっと後悔するだろう。


自らの意思で動かねば

きっと失うだろう。


そして、本当はもう気づいているのだろう?』


いつもは夢の内容なんて細かく覚えていない。

でも、最後の言葉だけは忘れないし忘れられない、そんな気がしていた。


ーーーーー


「にゃ…」


猫が起きる前から猫の姿へと戻っていた。

窓から見る外は少し薄暗い、天気が悪いようだ。


(またあの夢だ。)


「おはよう猫ちゃん!

今日はお寝坊さんだね。」

「にゃ。」


静奈は既に起きていて、朝ごはんを頼んでいた。

いつものようにベーコンを渡してくる。


「いただきます。」

「にゃ〜。」


平和だ。

この前の外出からはずっと平和な毎日が続いている。


一緒にご飯を食べ、静奈と遊び、鈴は無くなる。

その鈴を見つけ出したあと、2人で陽にあたる。


これが基本のルーティン。


変わるのは、稀に静奈の石作りが入るぐらいだ。


「あっ、そうだ。

猫ちゃん、ちょっといい?」

「にゃん。」


(食べ終わったし、別に大丈夫。)


静奈が持ってきたのはタブレット、画面にはいくつかの鈴が写ってる。


「何色がいい?」

「……」


(え、何色でもいい…)


色によって違いはあるのか?

猫にとっては無い、静奈が探す鈴の色が変わるだけ。


「にゃ!」

「白?いやプラチナ?

よくわかんないけど、白くて光ってるやつね!」


最初は少しでも見つけやすい色をとも考えた猫だったが、自分の色である白も良いなと思い、白で少しキラキラしてる物を選んだ。


「よし!

それともう一つ。」


変わった画面には、画像は無く文字のみ。


「願いを叶える白猫だって!」

「にっ!!」


それは特徴だけ聞く限りでは間違いなく猫の事。


(流石にバレたか?)


猫は自身がここまで有名になるなんて思ってもいなかった。


「こういうのはあまり信じてなかったんだけど、猫ちゃんに会ってから変わった。

私の願いは叶ったよ。」

「にゃ、にゃ〜…」


質問攻めにされるか、願いを叶えさせようとしてくるか、猫の正体に勘付いた者達は自ら破滅していった。


(静奈も、変わっちゃったのかな…)


少し身構えるが、


その後は特に変わった事も、静奈に質問攻めにされる事も無かった。

静奈にとって、ただ偶然が重なっただけ、という考えなのだろう。タブレットを閉まって、櫛で猫をブラッシングし始めた。


「にゃふ♪」

「うわぁ、フワフワがいっぱい。」


毛の生え変わる時期とは少しズレているがそこそこ取れ、拳代ほどの毛玉が完成した。


(静奈が変わらなくてよかったな…)


「にゃ?」

「ん?

猫ちゃんどうしたの?」


猫はホッとしている自身に驚く。


静奈は確かに気に入っているし、大切にも思っている。

だが猫は長くを生き、別れなんて数え切れないほど経験してる。仮に静奈と別れる事になったとしても多くの別れの1つ、大切な思い出となるはず。


(なにか、変わってしまったのか?)


こんな事は初めてだった。

別れたく無いと強く思うなんて、それが悪い事とは思わない。


「猫ちゃん?

大丈夫?喉乾いちゃった?」


(分からない…)


理解できない感情に落ち込んでしまう。

耳や尻尾、毛ですら少し落ち込んでいるように見える。それを察知した静奈が心配そうに見つめる。


(一緒にいたのは願いを叶える為、

静奈を助けたのはオーラを消費する為、

オムライスを作ったのだって…)


深く思考の沼に沈んで行く…


チリン…


「猫ちゃーん?

鈴だよ〜。」

「にゃ…」


尻尾を全力で振り、目の前に転がされた鈴を飛ばす。


「あ…またやられた。

やっぱり紐つけるべきかな。」


鈴は布団へと向かって隙間から入り込んだ。


(何をしたい、か…)


夢の内容が頭に浮かぶ。

何度も問われた、何をしたい、今更だが猫は本当の意味で気づけた。


(私はただ流されているだけ。)


『本当はもう気づいているのだろう?』

頭の中で繰り返される、夢での言葉。


「にゃ〜ん…」


(空気が重いな…)


それが心理的な問題なのか、それとも天気が悪い事に関係があるのか、それは猫にはわからなかった。

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