第19話 壊してこようか?

静奈に作ったオムライスの量は決して少なくはなく、少し残ることも考えていたが静奈はペロリと食べ切った。


「美味しかった、です…」

「それは良かった。」


大分持ち直したみたいだ。


「あの、此処は一体…」

「……」


(何て言おう…)


静奈の様子から人型に成れるのはバレていなさそうだし、良い感じの言い訳をしたい。


「せ…貴方の願いの空間。」

「願い?」

「貴方のためだけのね。」

「?」


静奈はよくわかっていない、言った猫自身もよくわからないのだから当たり前。


「つまり、夢?」

「…似たようなものだ。」


違うがその勘違いは好都合、夢での出来事だと思えば猫の正体がバレる事もない。

デメリットとして、この空間を出し続ける為にオーラが減っているが…


「聞いてもいい?」

「はい!オムライスのお礼です!」

「今日は何があったの?」


猫がそれを聞いた瞬間に、少し俯き、目から光が失われた。

だが折れてはいなかった。


「聞いて貰えますか?」

「もちろん、私が聞いたのだから。」


一呼吸おき話し始めた内容は、猫にとって信じられない、怒りを感じる内容だった。


ーーーーー


「ん…あっ!」

「あら、起きた?」


抗えない睡魔に襲われ、寝てしまった静奈。

実験の時間が減ってしまった、嫌われてしまうかもと不安になる。


「あの、すいませんでした。」

「んー?必要なデータは取れたし問題ないわよ。

少し離れるけど自由にしてて、何かあったらこれ押せば呼べるから。」

「わ、わかりました。」


そう言って氷さんは部屋の外へ。


静奈は部屋に入って直ぐに機材を付けられたり忙しく、室内を見渡す事は出来なかった。


部屋は一部を除いて整理されており、本当に人が使っているのかと思う程の机もあった。

その一部も汚れているというよりは、資料を纏めている最中なのだろう。


「外さない方がいいよね。」


椅子に座りながら寝てしまったのもあり、立ち上がり軽く体を伸ばしたかったが我慢する。


かといってやる事もなく、静奈は近くに置いてあった資料を見る事にした。

少しだけ罪悪感があったが、ダメそうだったら直ぐに戻そうと、


「え?」


その考えは資料の中で1番目立つ場所に書いてあった文字を見て一瞬で吹き飛んだ。


【『神に愛された者』のエネルギーを効率良く取り出す実験】


聞いていた実験の内容と違う。

それに静奈はこのタイトルに覚えがあった、それは『神に愛された者』が現れ始めた頃に行われ、死者まで出した最悪の実験。


詳しい内容は公開されていないが、当時は最悪の3実験とまで言われた物の1つ。


「え、嘘…え…」


信じられない、いや信じたくない。

自分に優しくしてくれた人が、

自分の名前を聞いてくれた人が、

自分と嫌がらずに喋ってくれた人が、

こんな悪魔の所業とも言える実験をしているなんて。


右腕を掻きむしりたくなる。

付いているのが実験の道具なら、これは間違いなく寿命を削る。


「はぁ、はぁ…」


息が苦しくなり、嫌な汗が吹き出す。

だが資料を読むのは止まらない。


「やだ…」


資料の通りなら、氷さんが仲良くしてくれたのはーー


ガチャ


「お待たせ〜。」

「!」


軽食と水を持ち、氷が戻ってくる。


「ん?どうしたの?」

「だ、大丈夫です。」

「……」


身体が震えないようにするので精一杯で、声が震えてしまった。


「あ、あー…

あの資料見たの?」

「……!」

「はぁ、失敗だ。

回収したと思ったんだけどなぁ。」


別人のように冷たくなった目と雰囲気。

静奈は見た事がある、嫌いで嫌なものを見る目だ。


「あっ…」

「帰って良いわよ。

もう私と会うことも無いでしょうし、言いたい事があれば聞くけど?」


最後?

なら、これだけは嘘じゃ無いと信じたい。


「私の、名前…」

「そんなのが最後の質問でいいのかな?

巫女ちゃん?」


その後はよく覚えていない。

ただ家に向かって走った事だけ…


ーーーーー


「以上です。」

「……」カタカタ


光の無い目で一点を見つめながらも説明し終わった。猫は言葉が出なかった。

小刻みに揺れているのは怒りを抑えているせい。


(ここまで…

静奈がこれ程まで虐げられる理由はなんなんだ。)


此処が夢だと思っている静奈は、自分の気持ちも全てを吐き出し教えてくれた。


寂しくて、辛くて、見て欲しくて、

普段の静奈が溜め込んだ感情を全て。


「私が、壊してこようか?」

「え?」

「貴方を虐げた者達を。」


猫は白オーラを持つ人間の願いを叶える、それは必ずしも綺麗な願いでは無い。


例えば、悪夢を見せたいとか、嫌いな奴の体調を悪くするなど、意外とこんな願いは多い。


願いの為に人を殺めた事もある。


その時に願ったのは復讐だった。

白いオーラを沢山持っていた青年、理由までは知らないが強い怒りと悲しみを感じた。


「それは…」

「貴方を虐げる者は要らないでしょう?」

「……」


猫の提案に目が泳ぎ、明らかに迷っている。


「た、大丈夫です。」

「何故だ?」

「わかりません…

でも、それはやっちゃダメな事です。」


両手で静奈の顔挟み、目を合わせる。

しばらく見つめ続けわかった、意思は変わらない。


「わかった。」

「はい!ありがとうございます。」


そう言った時、安心したのかあくびが出ている。


「もう寝るといい。」

「そうですね…

おやすみなさい。」

「最後に1つだけ、」


しっかりと抱きしめる。


「私は貴方を見守っている。

1人じゃ無い。」

「ありがとぅ…」


静奈が寝たのを確認し、部屋を元に戻す。

電気を消し、昨日と同じように布団に入り共に寝たのだった。

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