第17話 必要経費的な

とある学者が言った。

『聖人の力は割れ、神に愛された者へと分割された』


そう言われたのは聖人が亡くなり、神に愛された者がで始めた頃だった。

当時は笑われ、聖人を絶対視していた者から異端とされたが時が経つにつれて笑い話では無くなった。


力に差がある事はわかっていたが、何故そうなったか理由は一切不明だった。


それが解明されたのは、高位の異形を討伐した時。

多くの神に愛された者が亡くなったのにも関わらず、新たに生まれた者は3名だけだった。


『また魔の時代が来るのか…』


皆がそう思っていたが、その3人は強力な力を持っていた。


『人数に関係があのでは?』


そう思い立った者達が過去数年分の資料から、人数が少ない時は力が強力な者が多かったと結論付けた。


一部では神に愛された者が1人になった時

聖人が再来する、と言われている。


ー割れた力 歴史教本より抜粋ー




「にゃー。」

「あっ!猫さんだ!」

「私初めて見た!」


置いて行かれた猫は車を追い続ける最中、子供達に群がられていた。


(邪魔すぎる…)


すぐに猫は逃げようとしたが、珍しく白オーラがそこそこある子供3人組だった。

逃げて、待って〜などと言われたら強制で叶えないといけなくなる。猫は逃げられなかった。


「可愛い〜。」

「強く触っちゃいけないんだって、優しく撫でるらしいよ!」


(子供なのにわかってるね。)


最初はイヤイヤ付き合っていた筈なのに、最近の子供にしては猫の扱いがわかっており、尻尾を振ったりなどのサービスをしてしまった。


「飼われてるのかな?」

「野生の猫さんって珍しいんだよ。

こんなにフサフサだし、きっと飼い主さんがいるはずだよ。」

「なら、逃げ出してきたとか?」


(逃げ出し…いや、追いかけ?)


この場合だと、どっちなのだろうか。


そんな事を考えながら子供達と戯れる事30分、流石にそろそろ静奈の所へ行こうと動き出す。


「にゃ。」

「あれ?帰るの?」

「にゃー。」


猫が立ち上がり一声鳴くと、帰るのだと考えたのか撫でるのを辞めた。察しのいい子供達だ。


「「「ばいばーい!」」」

「にゃっ!」


静奈の願いを辿り、大体の位置と方向を確認。

意外と近い?いや近いのは直線での話で、歩いて行くとかなり遠い。


(全力で走るか。)


あまり速すぎるとバレる為、気配を消しながら走る。勿論オーラ込みで。


人や自転車、車までも追い越しながら走る。


猫の中にあるオーラがガリガリ減っていく。

着いた頃には、願いは破棄されてもおかしくない程消費していた。


まぁ、静奈なら意味わからない方法で大量にオーラを獲得してくるから問題はない。

ある程度使っても願いが破棄される事は無いだろう。


(静奈の家にあるのと似ているけど、なんだろ。)


静奈の家一体に広がる不思議空間、目の前のビルからはそれらしき雰囲気を感じる。


だが、似ているだけで感じる物は違う。

ここにあるのは一言で表すと、不快。


(猫のまま忍び込む?)


嫌な気配が強すぎる。


ここで静奈が出るのを待とうかとも思ったが、

中で何が起こってるのかわからない、静奈が変な事に巻き込まれていないか心配だ。


ザワザワ ザワザワ


(やばい、人間達が集まってきてる。)


猫の周囲に人が集まり始めた。

同じ場所に留まりすぎた。


(人になった方が見られないか?)


そう思い立った猫はすぐに行動に移す。

裏路地へ走り、人の状態へ。


「ふぅ…」


服装は猫の変身した姿と、同じくらいの人間を参考にした。


早速ビルへと向かうが、


「近くに座れる場所があれば…」


静奈の居るビルは、関係者以外立ち入り禁止だった。

折角人の身体になったし戻るのは勿体無いし、なぜかオーラの消費が少ないから別にいい。


多分だが、静奈の願いに必要な消費だと判断されたんだろう。


ビルの入り口が見える場所で待つ。


「いいところがあった。」


ベンチに座って軽く目を閉じる。

静奈の居場所ならなんとなくわかる、移動しても築ける。


「おい、ナンパしてこいよ。」

「お前、あの人は無理だろ…

どう見ても、お嬢様じゃねぇか。」


「あの人綺麗!」

「こら、人に指を刺してはいけません。」


「先輩!あの人をスカウトしましょう!」

「しかし、休んでるからなぁ…」


猫の時とは違う意味で視線を集めている。

この世の者と信じられない程の美人だ。見ている者は好き勝手に何者なのか想像している。


(視線がうるさいな。)


世界一の美貌を持っていると言ってもいい女性が、1人で過ごしているなら声を掛けられてもおかしくはない。


だが誰も声をかけず、距離をとって見つめるだけ。

理由は、あまりにも警戒心の少ない雰囲気と、バックや荷物を持っているように見えない事。


その様子から、誰が見ても身分の高い存在か金持ちの御令嬢にしか見えないからだ。


「ん?」


静奈が移動している、しかもかなり速い。

この調子だと1分もせずに出てくる。


「「「!」」」

「すまない、通してくれ。」

「「「はい!」」」


集まってた集団は、一声で顔赤くして散っていった。


「あっ出てきtーーん?」


静奈の様子はおかしかった。


顔に感情が無いのに、涙を流していて…

無意識だろうが猫と似ている力を使いながら全力で走りさってしまった。


「まずい、追わないと…」


だが猫とは違って人の姿では全力では追えない、

猫は人の姿に変わった事を後悔するのだった。

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