第14話 どうして…
静奈と鈴で遊んでいる。
鈴を畳まれてる布団の下へ押し込み、静奈に取ってもらい猫の前に置いてもらう遊びだ。
いつもなら紐も付いているが、それは猫が噛み切った。
「なんでまた入れたの?」
「にゃー。」
「むぅ…」
鈴を取り出して、猫の前へ転がす。
チリン チリン
「あっ!」
猫の目の前まで来た瞬間、前脚を器用に使い布団の中に入れ込んだ。
「……」
「にゃー。」
「新しい紐を探そう…」
どっちが遊ばれているのかわからない遊びを、大体20分ほど楽しんだ時だろうか。
(ん?)
ピンポーン
「来た、行ってくるね。」
インターホンが鳴り、静奈が玄関へと走って行った。
外からは、人間数人分の嫌な気配と、真っ黒な塊にも思える何かを少し前から感じていた。
黒オーラのような不快感だが、それよりも遥かに不快だった。
(行きたくないなぁ…)
憂鬱な気持ちになったが、静奈の安全を確かめなくてはと猫も玄関へと向かう。
「ーーー!」
ガタ!
突然聞こえた怒鳴り声に体が一瞬硬直する。
怒鳴った声は男の声、静奈では無かった事になぜかホッとした。
バレないように気をつけながら近づく。
「わざわざ此処まで来たのに、通常なら10時のはずだろう。
なにをやっていたのだ。」
現在は12時少し前。
静奈と向き合っていたのは男。
ガスマスクを付けているとは思えないほど、鮮明に声が聞こえたが、言葉には棘を感じた。
「で、ですがーー」
「話すつもりはない。
さっさと作業に移りたまえ。」
「はい…」
(なんだあのジジイ。
静奈にあんな怒鳴って、それに鳴らすなら来た時に鳴らせばいいのに。)
いや、きっと来ていなかったのだろう。
約束の時間が10時だとして、もし来ていたのなら猫が気づくし、さっさとインターホンを鳴らしてたはず、つまり静奈に対する嫌がらせなのだ。
(毛を無くしてやろうか。)
男に対する最凶の嫌がらせ、髪の毛消滅。
猫は願いを叶えるうちに、失いたくない物を学んだのだ。その気になれば毛根は直ぐに消失する。
まぁ、実際に行った事はないが。
「うっ…
酷い匂い。」
(鼻栓しよう…)
玄関の外はグロテスクな光景が広がっていた。
黒い肉の塊、所々見える白いのは…深く考えないようにしよう。
(気持ち悪い…)
肉塊はボコボコと膨らんだり萎んだりを繰り返し、プシューと紫色の空気を吐き出す。
常人なら嘔吐してしまってもおかしくない。
(あのジジイ達は、あの車の中だな。)
車からは嫌な人間の気配、少し離れた所に止まっている車に乗り込んだ男達への怒りが募る。
静奈が頑張って何かしてるのに、何もしないからだ。
(というか、静奈は本当に何をしてるんだろ。)
静奈は肉塊の前で踊ってた。
正確には踊ってるように見える、だけど。
鈴が沢山ついた棒を鳴らしながら動く、鈴の音がだんだんと大きくなるにつれて、肉塊が小さくなっていく。
「はぁ、はぁ…」
流石に疲れてきたのか、昨日の疲れが残っていたのかわからないが、静奈の苦しそうな呼吸が聞こえる。
だが車2台ほどの大きさだった肉塊は、バスケットボール程まで縮んでいた。
「ふぅ…
頂きましょう。」
更に縮ませゴルフボール程になった時、静奈はその場でへたり込んだ。
残った肉塊を手に取り、自分の心臓部分へと押し込む。
(なにやってるの!)
肉塊は体には入り込み、沈んでゆく。
「グッ、アァァ!」
(あれは、まずい…)
あれは静奈の持つ力にあの肉塊を当て、相殺する事で肉塊を消滅させている。
その力も能力的な物ではなく、猫にとってのオーラつまり寿命を使ってる。
不幸中の幸いというべきか、詳しい事は猫にはわからないが、静奈だけでなく別の所から消費する事で寿命の減りをかなり減少させているようだ。
減った寿命は多分1か月だろう。
「ふぅ〜…」
少しでも痛みを和らげようと、中のオーラを使って痛み止めと同じオーラを与える。
まだまだ痛いはずだが、多少はマシになるはず。
そもそも寿命と肉塊の相殺だ、
肉塊の方はともかく寿命は自らの体内に存在する物、体内にある物が削られるように消えるのだ、消える時には痛みを伴う。
「ふぅ、はっはっ…」
痛みに耐え、静奈は見事に肉塊を消滅させた。
「では我々は撤収する。」
猫にはハッキリと聞こえた。
完全に消滅させたのを確認し終わったら、直ぐにエンジンをかけ、家から去って行った。
「にゃー!」
「猫ちゃん、浄化終わったから大丈夫だけど、終わってなかったら危なかったよ。」
息切れはしてるけど、昨日より疲れはまだマシそうだ。
「お部屋、いや縁側で少しお昼寝しようか…」
「にゃー。」
(良いね。)
それに寝てくれた方が猫が調べやすい。
疲労の原因である肉塊が、静奈の体に異変を及ぼしていないかの確認だ。
ガラガラ
家に入り、縁側で座って過ごしていると少し眠気が襲ってくる。
風と草木が擦れる音が響く空間は、猫と静奈をリラックスさせた。きっとそれが眠気の正体だろう。
「猫ちゃんが居てくれてよかったよ…」
「にゃ?」
「1人は嫌なんだ。
今日、良い夢を見れたから余計に。」
猫を優しく撫でながら話す。
「さて、おやすみ猫ちゃん。
あまり寝過ぎないようにしようね。」
(……)
猫は思った。
どうして静奈は苦しんでまで色々と頑張っているんだろう、と。
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