第13話 元気そうだ
魔の病『悪魔の宣告』
異形の死体から発生する瘴気を吸う事で罹る病。
症状は何も無い、ただ罹って死という結果が残るだけ。
本人か『神に愛された者』にしかわかない、自覚してからちょうど1週間で死に至る。
特効薬は無く、始まりの聖人ですら生涯を掛け治療した7231人中、治せたのは32人のみ。
発症した者は、7日間の間に家族へとメッセージを残し、残りの時間を施設で怯えながら過ごす事となる。
まさに『悪魔の宣告』という名に相応しい。
治療法の研究は行われているが、未だ有効な手段は見つかっていない。
だが、異形の死体の処理方法が確立されてからは発症報告はかなり減った。
その方法は『神に愛された者』による浄化という手段。
詳しい方法は公開されていないが、かなりの負担がかかるらしい。
ー魔の病 歴史教本より抜粋ー
(そろそろか。)
スヤスヤと眠っていた2人のうち1人、金髪の女性、猫が起きた。
いつものアラームの時間だ。
「すー…」zzz
静奈は猫の胸の中で、軽く笑みを浮かべながら安心しきって寝ている。
「ん?」
猫を抱いて寝ていた時には見なかった表情。
無意識でも、体が現在の状況を喜び、失いたくないのか、猫が起きようとするとワンピースを掴み止めようとしている。
(こんなに嬉しそうな静奈は初めて。
できれば、まだ一緒に寝てあげたいけど、もう鳴るんだよな。)
感覚ではあと数分、アラームが鳴るまでに猫の姿に戻らなければ少し面倒な事になる。
「また夜できるから…」
起きない程度に耳元で囁く。
無意識でも聞こえるだろうし、もしかしたら手を離してくれるかもしれないと考えた。
(ダメそうだな。)
静奈の外の音が聞こえないよう耳に透明の膜を張る。オーラは減るがこの姿を見られるよりはマシだ、仕方ない。
(私にも使って、二度寝するか。)
何も聞こえなくなる。
自分で声を出しても、物音を立てても、絶対に聞こえない。
(眠ろう…)
その後、静奈が起きたのは普段から3時間遅く、もう少しで昼ご飯の時間になっていた。
「うわぁ!
なんでこんな時間なの?!」
「にゃ〜。」
「あ、おはよう猫ちゃん!」
アラームは1時間鳴り続けた後止まっていた。
抱きしめたまま眠っていたが、
唐突に静奈が動き始め猫は眠りから覚めた、どうしたのかと様子を見ていると、上半身を起こし始めたので猫に戻る。
静奈の起きる時はすごく分かりやすかったし、寝ぼけてた。
そのおかげもあり、起きる前に猫の姿へと戻る事ができた。
「うわぁ、うわぁ…」
時計を何回も確認しながら、落ち込んでる。
どうやら寝坊をしたのは片手で数えられる程で、こんなにも長い時間寝過ごすのは初めてなんだとか。
「にゃ〜。」
「起こされない睡眠が、
こんなにも、スッキリするなんて…」
(確かに、寝むそうな気配が一切無い。)
「猫ちゃん。」
「にゃん?」
「今日、気持ちが楽なんだよね。
もしかしたら猫ちゃんが一緒に居てくれるからかも、ありがとう。」
笑顔でお礼を言ってくる。
ふんわりとした柔らかい笑顔、不安を全く感じていない様子だった。
「ご飯食べよっか。」
「にゃ!」
猫は忘れていた。
「あっ…」
「にゃ?」
いつもご飯が届く箱には、
(あっ…)
「これ、まだ食べれるよね?」
昨日の朝頼んだ、朝食が残っていた。
ベーコン、スクランブルエッグ、パン、サラダ。
多分、ベーコンとパンとサラダは大丈夫。
だがスクランブルエッグだけは危ないだろう、少し半熟だったから。
「にゃ…」
「いつもより美味しくないかもだけど、猫ちゃん食べれそう?」
「にゃん。」
味を楽しむだけ、美味しくなくても猫には問題ない。
「はいベーコン。」
「にゃ。」
(待った、静奈は卵食べるのか?)
「いただきmーー」
「シャー!」
「すぅ…?」
急に威嚇し出した猫を不思議そうに見つめている。
「どうしたの?」
(ちょっと待って。)
静奈の前にある机へ飛び乗り、卵の匂いを嗅ぐ。
過去に嫌な匂いがする物を食べた人間は苦しそうにしていた、安全かどうかを確かめているのだ。
「卵食べたいの?」
(ん、少し酸っぱいかも。)
「にゃー。」
「んー?」
「にゃにゃ!」
「にゃー♪」
(喋っちゃおうかな…)
静奈を心配する気持ちは伝わらない。
ベーコンを差し出して意識を逸らさせようとする、前脚を器用に使い皿を静奈の方へ。
「にゃ?食べていいにゃ?」
「にゃー。」
いまだに猫語を話す静奈は、全てとはいかなくとも猫のしたい事を理解しベーコンを受け取ってくれた。
(仕方ない。
卵食べるか。)
猫はお腹を壊さないし、少し不味いぐらいで我慢できるだろう。
「いただきます。」
ご飯を食べ始める。
ポソポソだ、と言いながらパンを食べ、
これが干し肉?と言ってベーコンを食べる。
違う、全部時間が経って劣化しただけ、、
「猫ちゃん、今日は部屋にいてね?」
「にゃ〜…」
「浄化っていうのをしないといけないんだ…
汚れちゃうし、どれだけ時間かかるかわからない。ごめんね。」
猫は理解してーー
(汚れないから大丈夫、それに暇だし勝手に付いて行くから。)
いなかった!
この家にも住み慣れ、静奈と遊ぶ以外やる事も無く、猫はとても暇なのだ。
「ごちそうさまでした。」
「にゃー。」
(疲れが残ってないみたいで良かった。)
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