第12話 おやすみ、静奈…
静奈が眠りに落ちてから、どれくらい時間が経っただろうか。いつの間にか太陽は沈みかけ、あと30分もすれば暗い夜になるだろう。
「う、あ…」
「にゃー。」
薄っすらと目を開けた。
「ねこ、ちゃ…」
(よかった、起きた。)
ある時から呼吸をしていないかと思うほど、ピクリとも動かなくなっていたのもあった。
静奈の無事を確認してホッとする。
「もう、夜…?」
「にゃん。」
家までの距離は近いとはいえ、早く戻らないと真っ暗で危険。
猫は暗闇でも普通に見えるし問題ないのだが、静奈は真っ暗で何も見えない。まだ陽の光が残ってるうちに家に戻ってきおきたい。
「やだ、暗くなる…」
這うように壁に近づいたあと、壁に手をつけながら立ち上がる。
腕も脚も小刻みに揺れている。
「猫ちゃん、自分で歩ける?
ごめんね。」
「にゃ。」
神社を出る。
途中何度も転びかけながら、ふらふらと歩いていく。
(大丈夫かな。)
歩きながら服の紐を解く、ギチギチに着てるのが苦しかったのだ。
「お風呂…
シャワーで、いっか…」
「にゃん。」
「ご飯は、いいや…
早く寝たい…」
口から出てる言葉は、きっと無意識に言っているのだろう。
猫には静奈がいま何を感じているのか、全くと言っていいほど感じ取れなかった。
本当に疲労が限界で、家に帰って休む事で頭がいっぱいになってしまっている。
家が見えた。
陽の光は、まだギリギリ周囲が見渡せる程度の明るさはだった。
扉を開け玄関へ。
「着いた…」
靴を脱ぎ、部屋に行き、着替えとタオルを用意する。
「私、シャワー浴びてくるね…」
「にゃー。」
(倒れないよね?)
あのフラつきは疲労だけでない、意識があるかも怪しく思う。
多分だけど無意識、いや自身に無理やり課していると言った方がいいか。
寝るためにはシャワーを浴びないと、などと考えているのだろう。
(あ、ベーコンの事忘れてた。)
そんな事を考えていた猫の思考は、唐突に終わりを迎えた。
朝に頼んだ朝食の存在を思い出したのだ。
(いつもと比べてさらに冷たい。)
元々冷たい料理だったが、表面から水気がなくなりカピカピになっていた。
この状況では、間違いなく美味しく食べられないだろう。唯一の救いは主食がパンだったこと、パンなら冷たくても問題ない。
(静奈、今日の夜は食べれるかな?)
シャワーを浴びに行った静奈の様子を見る限りでは、多分食べれない。
(今日は大人しく寝よう。
静奈の願いもあるsーー!)
重大な事実に気づいた。願いにまた期間を設定していない。
夜寝ている時に抱きしめて欲しい
いつも通りなら、この願いでも問題無い。数日抱きしめて寝るだけで白オーラが枯渇する。
だけど今回の相手は、謎の方法で白オーラを大量に増やす静奈だ。
元から受け取っていた白オーラの分も消費しないといけないのに、期限を設定していないせいで消費量が減ってしまった。
願いを叶えるとき、もちろん叶えてる最中も白オーラを支払ってもらうけど、1番支払いと消費が大きいのは叶え終わった瞬間。
つまり、
(また遠のいた。)
更にこの家に縛り付ける鎖が1つ増えたのだ。
(嫌じゃないんだけど、なんだかなぁ…)
快適ならいいんじゃないかと思うが、気持ち的に付いてこない。
一緒に住んではいるけど、猫にとっては願いを叶えるという目的で住んでいるため義務感を感じてしまう。
(静奈はいい子だから、もっと気楽に過ごしたいんだよ。)
一緒に過ごしてきて、しつこく遊びに誘われ面倒に感じることもあったけど、なんだかんだで絆されてる。
(何より静奈の近くは心地いいんだよね。)
コレに限る。
「眠いぃ…」
扉が開きシャワー終えた静奈が入ってくる。
(髪濡れてる。)
ドライヤーを忘れていた。
いや、忘れてる訳じゃなく、ちゃんと乾いていないだけ。
「寝るぅ。
おやす、み…」
畳まれたままの布団にうつ伏せに倒れた。
(そろそろか。)
姿が変わるのは一瞬。
猫は人の形へと変わる、髪が長く美しい金髪の女性だ。服装は白いワンピース
ただ違う所が1つだけある、背中に白い翼が付いているのだ。
「翼は邪魔か。」
そう言うと翼は霧のように消える。
猫の体でないと、鳴き声は勝手に人の言葉に変更される。その声は優しく柔らかい声でとても綺麗。
「ふむ、布団はちゃんとセットするか。」
静奈を浮遊させる。
猫が人の形を取った時にだけ使える不思議な力。
火をつけたり、水を出したり、風を起こしたり、となんでもできるがオーラは消費する。
「ついでだ、髪もちゃんと乾かしておこう。」
布団を綺麗に敷く、猫はこう見えて几帳面。
まぁ疲れないことが前提だが、疲れてまでキッチリはやりたくはないのだ。
カチッ
電気を消し、静奈を布団へ寝かせる。
「どうするべきか。」
どうやって抱きしめるか迷ったものの、直ぐに決め。左腕を静奈の枕代わりにし、右腕を背中に回す。
頭を抱きしめるような寝方となった。
「んぅ…ーーー…」
さて寝ようと思った時、内容までは聞こえなかったが、静奈が寝言を言ったのがわかった。
「泣いているのか。」
涙を指で拭うと、静奈からも近寄ってきた。
離れたくない、と伝えてるように。
「おやすみ、静奈…」
頭を撫で小声で言う。
これで、静奈の苦しみが少しでも楽になる事を願って…
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