第10話 うわぁ…
(かなり印象が変わるんだな。)
着替え終わった静奈の姿は、普段着てる巫女服と比べて少し豪華になった物を着ている。
幼い雰囲気が抑えられ、別人のようにも見えた。
巫女服の他にも、鈴がたくさんついた棒とか、形代とか、色々と道具が入っていた。
「ふぅ〜…よし。
頑張ろう。」
正座をしながら呼吸を整えて、玄関から家から出る。
猫もバレないように後ろから続く。
しばらく歩き到着したのは立派な神社。
(ここで何するんだろ。)
中には祭壇とテレビが置かれてる。
中心の祭壇を挟むようにテレビが置かれており、神社自体は神聖な雰囲気を感じるが横にあるテレビのせいで違和感がすごい。
テレビに繋がるケーブルが多く整理されているようには見えないが、埃は一切見当たらない。
静奈が祭壇の目の前に正座し、頭を少し下げると、片方のテレビの電源が付く。
(一応、隠れとこ。)
猫は柱の裏に身を潜めて、慎重に覗く。
画面には、顔全体を隠す真っ白な仮面をつけた男が映った。
「あまm…静奈、参りました。」
『さっさと始めよ。』
「かしこまりました。」
『ふん…』 ブツ…
会話は殆どなかった。
相手が静奈とは会話したくないと伝わるほど簡潔に、そして嫌悪感を隠しもしていなかった。
(なんだあの人間。
映像越しだからわからなかったけど、絶対オーラ真っ黒だな。)
猫が嫌な人間だな〜、と思っている間に静奈は小道具を祭壇へと並べ始めた。
(ん?
あれ、いいなぁ。)
猫は祭壇に並べた動画のうちの1つ、かなり古い銅鏡に強く惹かれた。
(なんであんなのに惹かれているのか…
なんとなくだけど、アレを出してから近くの空気が心地良いんだよね。
ん〜、なんでだろ?)
本当に惹かれているようで、心の中で饒舌になっている。
惹かれているといっても無理矢理引き寄せられている感じではない、ただそこにあるだけで人を寄せ付ける。
「はぁ…」
(静奈は大丈夫かな?)
諦めた表情で、明らかに落ち込んでいる。
コト…
最後の小道具を祭壇に並べ終わり、再び正座し頭を下げる。
その体勢まま30分程待ったあと、二つのテレビの電源が付き外の様子が映し出された。
片方は街の上空から、もう片方はニュース番組のようだ。
『以下の地域に異形が出現しています、
お近くに住んでいる方々は直ちに避難してください。』
「2体も…」
『危険度は2、家屋を壊せる程の異形です。
自宅に籠るのではなく直ちに避難を。』
映像では、大きめの車と同じ大きさの異形が暴れていた。
家を押し倒し、人を追いかけ捕まえようとし、道にある物を壊して進み続ける。
(うわぁ…
また、アイツら出てるよ。)
猫は異形の存在を見るのは初めてで無い、実際に暴れているのを見た事もあった。
どれほど前だったかは覚えていない、猫がいい感じの寝床を見つけそこに住み慣れた頃、異形にその寝床を潰されたのだ。
当時の猫は怒り狂った。
安全に暮らせる寝床だったのだ。それに加えて人間にばれておらず、雨風が凌げる最高の寝床。
(思い出したら、泣けてきた…)
今は静奈と共に暮らしているから、当時の寝床よりは遥かに環境は良いのだが、気持ち的には悲しいのだ。
「ぅっ…」
少し頭を下げた正座の体勢から、全く動いていなかった静奈だが、苦しげな声が聞こえ始めた。
(静奈が苦しんでる。
あの鏡は何をやってるんだ。自分の中にある心地良い力使えばいいのに、わざわざ静奈から吸い取ってる。)
猫の目には見えないが、感じ取る事はできる。
あの鏡が、静奈から何かを取り出して何処かへと送っている。
鏡の中にある力は使わずに、だ。
『聖軍が到着しました。
時期に鎮圧されるでしょうが油断せず、避難を続けてください。』
映像では異形に向かって、重装備の人達が槍と銃を持って走っている。
半分が遠距離から銃を構え、残り半分が槍を持って異形へと突撃している。
槍部隊が近づいてる事に気づいた異形が、腕と触手を伸ばして迎え撃つ。
腕のような部分と足のような部分に槍を突き刺し、力を込めて抑え込み、異形の動きを止める。
「ふぅ〜、ウグ…」
(ふ、増えてる!)
静奈の白いオーラが急激に増えているのだ。
だが、静奈は苦しそうにしている。
(大丈夫…?)
映像ではドンドン戦いが激しくなっていく。
『アレは?!
中継を切り替え…え?』
解説していたアナウンサーが焦りはじめた。
テレビに映ってる限りでは、特に問題があるようには見えない。
『そのまま映すって…わかりました。』
映像が切り替わる。
映っていたのは、異形に捕まっている子供だった。
『異形が1体倒されました。』
淡々と、映像には触れずに状況のみを伝えている。
「あ、あぁ…」
心配しているのだろう、苦しみながらもテレビの映像を見ている。
ババババ!
『し、射撃が始まったようです。』
銃の威力が高いらしく砂埃が舞って異形と子供が見えなくなる。
その映像を見ながら、過去に銃で狙われた時のことを思い出す猫。
きっと、あの子供にも当たっているだろう。
(人って本当に理解できない。)
射撃が止まり、砂埃がはれていく。見えたのはグチャグチャになった異形だけ。
1人の聖軍が肉塊となった異形に近づき、腕を突っ込む。子供を探しているのだろう。
グチャという音が部屋に響く、アナウンサーの声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
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