第7話 眠りを妨げる音
神の加護を与えられた者は不老だった。
しかし不死ではない、人並みに怪我もするし病にもかかる。違うのは、普通の人には使えぬ超常的な力を使えるという事。
加護を与えられた者は、それぞれ違う力を持ち人類を守った。
ある者は聖なる結界を生み出し
ある者は傷を病を癒やし
ある者は食料を創り出し
ある者は物に力を宿らせ
ある者は最前線で戦った
あの御方達が居なければ、我々人類は滅んでいただろう。それからは70年の平和が続く。
人類の生活圏を5分割し、それぞれ加護を受けた緒方方が統治する。
統治と言っても国ではなく、地区で分けられ明確な違いなど殆どなかった。
平和な世である。人類の混乱も収まり、異形との戦い、当時の生活に慣れ始めた頃のことだ。
1人の聖人が病に倒れた。
それも助かる見込みのない程の…
その事実は秘匿されたが、隠し切ることは出来なかった。
健闘虚しく、病にかかった緒方は神の元へと向かわれ、人類は再び不安と恐怖に包まれる事とになるかと思われた。
『力は弱いですが間違いありません、神の御加護を受けています。』
希望は未だ失われてはいなかった。
ー始まりの聖人 歴史教本より抜粋ー
まだ幼さを残す少女と綺麗な白猫が寄り添って寝ていた。
「「……」」zzz
幻想的、いや神秘的…
どの表現もしっくりこないが邪魔をしてはいけない、と強く感じる光景だった。
ピーーーーー!
平和だった空間に甲高い目覚まし音が聞こえ、
(うるさい!
目覚ましなら、もっと優しい音にできなかったの!?)
猫がキレた。
「ニャー!」
「……」zzz
(起きて?!)
このうるさい音の中でも、静奈は目を閉じたまま、少し苦しそうだが起きない。
廊下で眠ってしまった静奈を起こした方法は使えないし、やっぱり引っ掻くしかないか…
ピーーー……
良い感じに爪を伸ばしていた所で、目覚ましの音は止まった。
「にゃ〜…」
「ん、眠い…」
静奈が起きるまでアレは鳴り続けるのか、猫はもっとゆっくり寝たいんだけど…
目を擦りながら身体を起こし、猫を抱く。
ちゃんと居るのを確認するように…
「猫ちゃん、おはよう。」
「にゃー。」
(明日からはアレやめない?)
猫はジト目になっており、私不機嫌です、と伝えている。今の静奈が猫の顔を見たら、間違いなく謝られるだろう。
「すー…」カクッ
だが、静奈は半分は寝ていて気づかない。
「にゃふ…」
(やっぱり寝よう。
静奈だって眠そうじゃん、2人でまた横になろう。)
そんな気持ちは伝わる訳もなく、眠そうにしながら布団の上に座っている。
「起きる…うん、起きる…」
自分に言い聞かせるように呟き続けて30分、ようやく動けるようになったのか猫を下ろして髪をとかし始めた。
(なんか、オーラ増えてる?)
起きた時から違和感は感じていたけど、静奈の白オーラが増えてる。それに増える速度が凄く速い。
過去、同じ人が1年分のオーラを使ってのお願いを2回叶えた事があるけど、10年は間が空いてたし、オーラが此処まで急激に増えるなんて初めて見た。
「うー…
身体がだるいよぉ…」
(静奈だけが特別?)
草むしりとか、掃除をやってた人達が増えてたから、静奈も何かしてるんだとは思うんだけど。
今やってることは髪の毛をとかしてるだけ。
「これでよし!
お待たせ〜、ご飯頼もうね!」
猫が考え事をしているのを、ご飯を待っていると思われたのか撫でて直ぐに箱の元へ。
「猫ちゃんって、お魚以外何が食べれる〜?」
「にゃ!」
(なんでも食べれるけど、お肉がいいな。
変な味が付いてないやつ。)
「よいしょ、ちょっと見てみて。」
猫にも見えるよう、箱の上に乗せられる。
箱の上にはタブレットが備え付けられており、画面にはいくつかの料理が映っていた。
ベーコンとスクランブルエッグ、
コーンスープ、目玉焼きとハム、
ジャム3種類、ホットサンド、
主食はパン。
(あ、お肉だ。)
やっぱりとでも言うべきか、猫はベーコンに惹かれている。
足を伸ばし、これが良いと意思表示。
「わかったよ〜。
じゃあ、ポチッと!」
画面が切り替わり、
昨晩と同じようにデジタル時計が現れ
9:59…9:58…
(嫌がらせにしか思えない。)
まさかの待機時間10分。
嫌がらせかとも思ったが、今から作って温かい状態で届く可能性は残ってる。
「10分かぁ…
先に水だけでも飲んでる?」
「にゃん♪」
猫の娯楽第3位、水飲み。
睡眠も食事も、オーラさえあれば何もする必要がない。
だが気持ち的に落ち着くのだ。
「一応冷たくない方がいいよね…
はいどうぞ。」
「にゃ〜。」
コップから新しいお椀に水を移して渡してくれる、まぁ少しだけ飲みにくかったが…
「まだまだ時間かかりそう。
本当は私が料理できればいいんだけど、ごめんね。」
(わかったから、水飲んでる時に撫でないで…)
猫を撫でている静奈は空腹なのか、空いている方の手でコップを持ち、水をちょびちょび飲んでいる。
少しでも空腹を紛らわせるつもりなのだろう。
6:21…6:20…
まだまだ時間は残ってる。
「にゃー?」
「ん〜?私は大丈夫だよー。」
(…その顔、嫌だな。)
猫には静奈が無理をしているようにしか、見えなかった。
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