第5話 冷たいご飯

時間が経つ、即ち太陽の位置が変わり、日の当たる部分が移動するということで、


「…!」

(寒い。)


猫の寝ていた場所は日陰になってしまった。


(まさか黒オーラの人間が近づいてくる以外に、目が覚める事があるとは…)


寝てる時に起こされるのは本当にムカつく、何年経っても慣れないし、慣れたくもない。

まぁ今はどうでもいい。


そんな事より気になる事がある、


「スー…」zzz


(なんで静奈まで此処で寝てるんだろ。)


服は変わらず巫女服で腕を枕にして寝ている、このまま放置すれば間違いなく風邪を引くだろう。

そうなっては可哀想だ。これから共に暮らすのだし、猫が此処に慣れるまでは元気で過ごして貰わなくてはならない。

フサフサの尻尾を顔元に近づけてくすぐり、起こそうと頑張る。


「け…け、けふ!」


だんだんと可愛い顔が歪み。

独特な、くしゃみが出た。


(起きない!)


「けふっ…」


続けても起きないと察し、静奈の上に登ってみる事にする。


「グ…」


苦しそうな声が聞こえるが無視し、バランスを取るため、スフィンクスの様に座った。


「……」zzz


(まだ寝るのか…)


これでもまだ起きず、引っ掻いてやろうかとも考えた。

しばらく待っても起きないので、最終手段として顔に覆い被さり呼吸をしずらくする事で目覚めさせようとする。


「ふ、ふぐ…ゴホ!」


効果はすぐに現れ、静奈は見事目覚めた。

咳を出しながらも呼吸を整え、実行した猫をジトッとした目で見つめ、


「これはやっちゃダメだよ?」


撫でながら優しく注意した。

もちろん猫に拒否権は無くルールの1つとなったが、まだまだ猫の中のオーラは有り余る。


(この調子だと、静奈からは離れられないだろうな。)


猫の契約は、条件での終了とオーラ不足による強制終了の2つ。

条件は達成するまで、達成されなくてもオーラ不足で強制的に契約が破棄される事はそこそこの頻度である。


まぁ、静奈から受け取ったオーラ量では強制終了なんて並大抵の願いでは絶対にありえないが。


「今日は鳴らなかったな。

ま、いいや。ご飯食べよっか。」

「にゃー!」


(ご飯!ツナ缶かな?

最近はあまり見なくなっちゃったけど、ヤキトリっていう食べ物また食べたいな。)


廊下を歩き部屋へと向かう、猫は静奈の腕の中に収まっている。


「私、この時間嫌いなんだ。

暗いし静かで…」


太陽は沈みかけており、あと少しで真っ暗になる。猫と静奈以外、誰も住んでいないこの屋敷はだんだんと不気味な雰囲気に変わっていく。

静奈の廊下を歩く音がギシギシと聞こえるだけで、他は何も聞こえない。


「でも、今は猫ちゃんが居てくれるから平気。」


(手が震えてるよ。)


痩せ我慢だった。

この時間の屋敷は不気味。今はまだ夕日があり廊下はオレンジ色に照らされているが、人の気配がなく、音すらもない場所は哀愁とも取れるナニカを感じる。


「にゃー。」

「ふふ、にゃー、

もう着くにゃー♪」


にゃーにゃー、とお互いに言い合いながら1つの部屋へ。

そこはベット、机、タンスと生活感のある部屋。だが色んな意味で女の子らしくはなく、どちらかというとサラリーマンの住む部屋だと思う者がが多いだろう。


「今日の夜ご飯は…これが良いかな、猫ちゃんも居るし。」


そう言って静奈はデジタル時計が付いている箱へと近づきボタンを押した、タイマーは秒単位で残り15秒。


チーン


(あれって温める奴だったのか、最後に見たの随分昔で形も変わってたしわからなかった。)


タイマーが0になり箱が開く。


「猫ちゃんと2人で足りるかなぁ…」


お弁当箱を取り出し蓋を開ける。


中身は正直少なかった。

半分にご飯、もう半分にメインの焼きシャケ、レタスと御浸し。


「猫ちゃん、お魚食べれる?」

「にゃん。」


(食べれるけど、魚貰っちゃったら静奈が足りなくない?)


少しだけ心配しつつ、貰える物はもらう猫。

骨が無いか確認しつつシャケをほぐして渡してくる。


(冷たい!え、チンしてたのに…?)


シャケは冷たかった、あの箱はどうやら電子レンジではなかったようだ。


猫にとってはそこまで気にする事ではないが、

今まで会った事のある人間は皆んな暖かいご飯を好んで食べていたし、静奈にとっては辛いのではないかと考える。


「美味しい?」

「にゃー…」


(色々出来るようになってから大分経ったけど、この感情だけは慣れないな。)


同情や哀れみ、といった感情を感じるのは苦手だ。

頑張っている人間や、辛い目に合っている人間に対してそれを感じると特に。


「にゃ〜。」

(温めようか?)


「ん?美味しいにゃー♪」


猫の想いは当たり前だが伝わらない。

美味しいと言う静奈は嘘をついてるようには思えない、だけど…


(やっぱり此処は変だ。)


目からは少しの寂しさを感じた。


その後は特に何もなくご飯を食べ終える。

結構な頻度で、足りた?と聞いてくる静奈に鳴き声を出し返事をしつつ、毛繕いをする。


ガコン!


静奈がお風呂に入ろうと準備をしていた最中、ご飯を出した箱が音を立てながら開く。


「補充か、頑張らないとな…」


着替えを机の上に置き、再び箱へと近づいていく。

その動きは少しだけ遅く、箱へ近づくのを躊躇っているようにも見える。


猫には、静奈の声がかなり落ち込んでいたのが印象的だった…

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