第4話 お願い(強制)

猫が眠りについてから、大体3時間くらい。

首の後ろ辺りに何かが当たっているのを感じて、目が覚める。

まだ寝ぼけているが、


(ん…

もう少し、上…)


痒いところはもう少し上、体を動かして当たるように調節する。


(…こんなに柔らかかったっけ?)


ふと違和感に気づいた。寝た場所は石の上であり、柔らかい物に触れている感覚などあり得ない。

違和感に気づいてからは早かった、眠気が吹き飛び周辺を確認しようと目を開け、


(眩しい!)


途轍もなく眩しい光に阻まれた。

何もない白い部屋に居るのではないかと錯覚するほどの光、目も開けられない。


「あ、起きた。

えっと、どうすれば良いんだっけ…」


(目がぁぁぁぁ!)


不意打ちを喰らい、目に深刻なダメージを受けた。

人間の声が聞こえたのもあり原因は直ぐにわかった、この人間の白いオーラだ。


過去見てきた人間の誰よりも光り輝いており、

望めばなんでも叶えられる、と猫が本能でわかるほど。


例えば、目の前の人間が死者の蘇生を願ったとしたら直ぐに叶う。

だが、それを叶えたとしてもオーラが全てなくなるとは思えない。流石に2人目は無理だとは思うが。


「お、落ち着いて。」


(動けないぃ!)


猫は両腕でしっかりと抱かれて、動けるのは頭を軽く振るぐらい。

だんだん抱く力が強くなってきて抵抗を止める。


「猫ちゃんは飼い猫なの?」


かろうじで聞き取り、全力で首を横に振る。

この眩しさから解放されるのなら、もうどうでも良い。


「そうなの?!

じ、じゃあ、一緒に居てくれないかな?」 


目をキラキラさせながら猫に問いかけている、その声には期待と不安が混ざっている事がわかった。

が、


(わかったからぁぁ!)


猫にそんな余裕はない。

光が点滅を初め、目が痛くなる。


「やった!

今日からよろしくね、猫ちゃん!」


本当に嬉しそうな声が聞こえ、光がゆっくりと強さを失っていく。


(待って、吸いすぎじゃ…)


そのうちオーラは完全に消えて、捕まえてる人間の姿が見える。

黒髪で肩に掛かる程の長さで巫女服のような物を着ている、12歳ぐらいの少女だった。


(え、本当に…)


あの大量のオーラが

『一緒に居てほしい』

という願いだけで、全て消えるなんて思わなかった。


「やった!家族だ!」


その少女は猫を抱きしめ、飛び跳ねそうなほど喜びながら、

泣いていた。


(どうして泣いてるんだ?)


悲しんでいるのではない、ホッとしたかのような安堵や喜びの涙。


「にゃ〜。」

「ん!ニャー!」


一度鳴くと、少女も鳴き真似をする。


「私は静奈!

猫ちゃんはお名前ある?」

「にゃ〜。」

「ふふ、ニャー!」


しばらく喜んだ後、落ち着いたのか腕から降ろされる。

部屋は木造で家具も木、昔の屋敷に似ている。


「ごめんね。私これから少し用事があるんだ、自由に歩き回っていいよ。

あっ、障子は破らないでね!」

「にゃー。」


そう言って廊下を走って行く静奈。


(これから住む所を探検するのに丁度いい、願いの力でどうせ出れないし。)


猫は願い事の事をきちんと理解している。

静奈が願った『一緒に居てほしい』は、共に過ごすという事であり、オーラを大量に受け取ってしまった事で24時間以上離れる事はできない。


これに関しては特に問題ではない、

それどころか寝る場所に困らないし、オーラは集めなくても最低600年は余裕で過ごせる程手に入れられて、メリットしかない。


問題は期限が決まっていない事。

オーラ量が莫大でかつ、願いがかなりふんわりとした物であり、細かいルールが決まっておらず契約は不完全な物になっている。


つまり契約は結ばれて絶対に願いを叶えないといけないのに、後から条件を加える事ができるという、一方的な搾取のような状況になっているのだ。


(そんなこと、考えても仕方ないけど。)


廊下を歩く、部屋の中も気になるが今は廊下を歩いて家の大きさを感覚で覚える。


意外と家は小さめだったのか、そこまで時間を掛けずに廊下を一周してしまった。

廊下が四角形になってて、内側は小さな庭に、外側には部屋が幾つかある、珍しい形をしていた。


(此処に1人で住んでいるのか…)


この家には人の住んでいた形跡が少なく、此処に住んでいるのは静奈が1人で住んでいるのだろう。

その証拠に障子を少しだけ開けて部屋の中を見るが、シャワーやキッチンを除き、殆んどの部屋に家具は無く、生活感のある部屋は1つだけ。


「ーーー…」


あと見ていないのはこの部屋だけ、中から声が聞こえるし静奈が居るのだろう。


「にゃー。」


ガタ!


「シー!

いい子だから、もう少し待っててね。」


(やらかした…)


鳴いたのは失敗だった。

少し焦った様子で障子を開けて、静かに待っててと言われてしまった。

少しだけ見えた部屋の中は、カメラとかパソコンが置いてある、何かの撮影中だったのか…


(日向ぼっこしよう。)


廊下の一角、太陽の陽が当たるところまで移動する。


(のんびり出来るっていい、外だと色んなことに警戒しないといけないけど、室内ならある程度なら安心できる。

まぁ、これから先どうなるかわからないけど。)


猫は久々にゆったりとした、リラックスできる時間を過ごした。

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