猫天使 拾われる

第3話 400年後の世界

世界が変わった始まりは、災害とか疫病とか色々言われている。

だが、やはり1番は怪物が襲ってきた事だろう。


地球に存在していた全ての国に、黒い異形の存在が現れたのだ。

その異形は銃火器では効果が無く、抵抗などほとんどできず人類は狩られ続けた。永遠に続くと思われた蹂躙だったが、異形は突如として消滅した。


世界人口の約40%が今回の事件で亡くなった。


だがそれだけでは終わらなかったのだ。


次に起きたのは土地の統一だった。

世界中の土地は一つに、真ん中に巨大な湖がある円形へと変わった。


この事件は死者こそ出なかったが、国の機能が失われ多くの人々が混乱し、治安が一気に悪化すると思われた。

だけど、そうならなかった。


人類全員に神の御言葉が聞こえたのだ。


御言葉は以下の通りである。


『人よ、落ち着きなさい。

この世界は悪魔に襲われている。

私の加護を与えた5人の元に集いなさい。

私はいつまでも子を見守っている、きっとこの試練を乗り越えられると信じている。』



ー異形と人類 歴史教本より抜粋ー



〜400年後〜


家の縁側に、1人の老人と白猫が庭を見つめるように座っている。

老人の手には古びたイヤリングが握られており、目からは涙が溢れていた。


「ありがとうねぇ…」

「にゃー。」


イヤリングは古い物で所々壊れかけているが、それを加味しても高価な物であったとわかる代物だ。

壊れない程度に、なぞりながら触っている。


「まさか、何十年も探していたのが見つかるなんてねぇ。

正直諦めていたよ。」


老人にとってこのイヤリングは随分思い入れのある品の様だ。


ポケットから取り出したハンカチにイヤリングを積むと、横に居た猫を優しく撫で始める。

願いを叶え終わり、猫にしか見えない白いオーラが流れる。


「もう行くのかい?」

「にゃ。」

「そうかい、ありがとうね。」


オーラを受け取り終わり、立ち上がって外へ出る。


(よし!)


今回のオーラ量だと6日間ぐらいか。

元から持っていたオーラと合わせると、全部で大体62年分くらい。


不思議な力を猫が手に入れてから、かなり長い時間が経った。

その間にも人間の願いを叶えたり、変なのに追われたりし、力についても出来る事が増えてきたが、いまだに全てを理解できたとは思えない。


お腹が空かないだけのは、結構早くわかった。


白いオーラを定期的に貰っていれば、お腹が空いたり汚れたりする事がない。

最初の時はわからなかったが、体内にある白いオーラの量はなんとなく分かる。それを1日でどれぐらい消費するとかも。


このオーラは人間の願いに応じて沢山もらえる。


猫が叶えてきた願いの中で1番もらえた願いは、

『またお母さんに会いたい。』であった。

その子の母親は亡くなっていたが、その子のオーラの量は凄まじく、直視する事ができない程であった。

そのおかげで一時的にだが子供と母親を会わせる事ができた。


ちなみにその時のオーラで40年分は確保した。

それでもまだ、その子には白いオーラが残っており当時の猫はかなり驚いた。


その後の『友達になって!』と言う願いで全て取ったが。


(あの子は、なにしてるのかなぁ。)


久しぶりに会いに行ってみようか、と考えながら歩く。


ただ昔の様に堂々と道路を歩いたりはしていない。猫の数が減り、今では希少種として高値で売買されているからだ。

捕まえれば一攫千金、猫にとって生きづらい世の中になった。


「あっ…」


早速嫌な気配を感じた、背後から近づく足音が響く。


「今だ!」

「にゃー!」


人間が飛びかかってくるのと同時に猫が走り出す。

背後から追いかけて来ている音が聞こえる、一回避けられただけで諦める人間ではなかった。


木の沢山ある場所へ逃げ、人間の視界を切る様に逃げ回る。


「ぜぇぜぇ…」


(タフな人間だな。)


1時間は鬼ごっこを続けている。

人間はフラフラで体力は殆ど残って居ないだろう、対する猫も体力をかなり消費しオーラが少し減った。


(もう諦めろ。

今日のお願い聞いて貰ったオーラが無くなっちゃうじゃん。)


体内に存在するオーラは、猫が激しく動くと消費が早くなるが、そのおかげで疲労は感じない。


「何者だ!」

「ほへ?」

「取り押さえろ!」


周辺から武装した4人の人間が出て、猫を追っていた人間を捕まえた。

3人で拘束し、1人が無線を使って何処かへ連絡している。


(どんまい人間。)


猫はその様子を木陰から見守っている。


心の中で必死に願っているのを感じ、オーラの量次第では助けようかとも考えたが、白か黒かもわからない程度だったから無視する。


オーラが少なければ、願いを叶えるのも中途半端になるし、猫自身で拒否する事も可能なのだ。

逆に多いと強制される。


「このまま連行する。」

「「「は!」」」


「え、待ってください!

少し話を〜〜〜!!」


(元気でね〜。)


四肢を拘束され、2人で抱えるように連れて行かれた。


そして騒がしかった此処は静かになり、ゆったりとした時間が過ぎる。


(人が居ない、静かで心地がいい。)


特に目的もなく歩く。


木が乱雑に生えているように見せているが、足元が整備されている不思議な場所。

人の手が入り、完全な自然では無いのだろう。

だけど、それなら人が居ないのはもっとおかしい。なんのために整備したのだろうか。


(此処、何かおかしい…?)


そのまま歩いていると、少し違和感のある場所を発見した。

その場所は透明の膜が張っている、踏み込んでみると別世界に迷い込んだかのような感覚に襲われる。


(特に不快感は無いし、無視しても問題ないか。)


辺りを見回し、特に害はないと判断。

近くの大きい石の上へ行き寝転がる。常に警戒する必要がなく、久しぶりにゆっくり眠れる場所だ。


「にゃ…」zzz


黒いオーラのある人間が近くに寄るだけで、目が覚めてしまう猫。人の多い場所だと、その分目が覚めてしまう率が高い。


白いオーラのおかげで寝なくても問題無く過ごせるとはいえ、ずっと起きているというのも暇だし、寝てる最中に起こされるとイラつくのだ。


陽の当たる石の上、気持ち良く眠る猫に近づく一つの影が合った。


「猫ちゃん?」

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