猫天使 誕生
第1話 神は負けた
人が居ない山の上空で、白い翼を持つ者を黒い翼を持つ異形の存在が囲んでいた。
もし此処に人間がいれば
白い翼を持つ者を天使、黒い翼の異形は怪物や悪魔と答えるだろう。
上空では直視出来ないほどの眩しい光、カンカンという金属がぶつかり合うような音、更には爆発音まで聞こえる。
それは太陽が沈み、また登り始めた頃まで続いた。
一際大きい光が収まった後、身体中から血を流す天使と数が減った悪魔が変わらず浮かんでいる。
「此処までよく戦った、だがこれで終わりだ。
この世界最後の神の勢力よ。」
「……」
1体の悪魔が少し近づき話す。
姿が人型である事、ほとんど傷がなく周りの悪魔達が指示に従っている事から、恐らくこの中で1番力が強くて立場が上の悪魔なのだろう。
人型悪魔の言葉は一種の誠意のような物を感じる、最後まで戦った戦士を讃えるものを。
周りの悪魔からはそんな物は感じない。あるのは相手を見下し、自らが上に居るという優越感。
「後は貴様らがやれ。」
最初に話した悪魔が周りへと指示を出す。
それを聞いた悪魔達は、大笑いしながら満身創痍の天使へと群がる。人型悪魔はそれを見て不愉快だというのを隠しもせず何処かへと去っていった。
「…!」
「ギャァァァ!!」
ボロボロの姿からは想像できないほど俊敏に、近づいてきた悪魔を魔法で作り出した剣で切り裂く。
この戦いは負けなのだ、もう楽になっても誰も文句を言わない。
だが天使は抵抗する。
「囲め!同時にやるぞ!」
天使の覚悟を感じたのか天使へ近づく者は減った、悪魔も命は惜しいのだ。
最後の力を振り絞り抵抗を続けるが、背後から槍で刺されたのをキッカケに終わりが近づく。
しかし、最期まで悪魔達を睨み決して悲鳴はあげない。
羽はもがれ、腕はもう動かず、
「撃て!」
全方位から悪魔達が魔法を撃つ。天使にはもう避ける程の力は残っておらず、全て命中する。
頭上の光の輪が消え天使は力尽きた。
「「「ウオォォォォ!」」」
世界の陣営、最後の戦力が敗北したため世界の所有権は神から剥奪された。
敗北した神はこの世界に干渉することは出来ない。
神は負けたのだ。
この世界に存在する生命、物質、存在する全てが悪魔の物となった。
『我々の勝利だ。』
何処からともなく老人のような声が聞こえた。
天使を仕留めた悪魔達は喜びの雄叫びを止め、同じ方向へと頭を下げる。
『この世界は管理し我々の糧とする。
勝手に人間を狩ったのが発覚した場合、即刻粛清する。指示が来るまでは各々待機していたまえ。
それでは、さようなら…』
最後まで言葉を聞いた悪魔達は各々世界中に散らばっていった。
この世界は悪魔にとって都合が良いように変わっていくだろう。
悪魔を倒す事ができて、
人を、世界を、守ってくれる存在が今この瞬間に居なくなってしまったのだから…
そんな世界の運命が決まった上空。
その真下の山で、
「にゃー…」
1匹のお腹を空かせた猫が歩いていた。
泥まみれで御世辞にも綺麗とは言えない、泥も所々乾いてパリパリになってる。
普段なら夕方に、近くの街で餌をくれるお婆さんの所に行くのだが、昨日は天使の結界により山から出られず食べに行けなかったのだ。
ドシャ!
急な音に猫は驚いた。
だが直ぐにそんな感情は消えた。お腹を空かせた猫の前に都合良く、翼が落ちてきたのだから。
それは上空で戦っている天使の物だが、猫にそんな事はわからない。わかるのは目の前に食べられる物があるというだけ。
猫は過去に1度だけ食べた事があった鳥だと判断した。形も色も全然違ったけど、普段食べている物よりかなり美味しかった記憶がある。
「にゃ!」
貴重な食べ物へと直ぐに飛びつき食べ始める、口周りが血で汚れた。
人間が見たら思わず目を逸らしたくなる光景だが、空腹の猫にとっては体が汚れたりする程度、気にしないし関係ない。
目の前の翼を一心不乱に食べ続ける。
今まで食べた物の中で1番美味しく感じた。
「にゃー♪」
気づいた時には目の前に翼は無く、空腹感は消え去っていた。食欲が満たされて満足したのか急激に眠気が襲ってくる。
夜中に食べ物を求めて山を走り回っていたのだ。いくら猫が夜行性とはいえ、一晩中走り回っていれば疲労は溜まる。
陽があたる場所で丸まり眠る。
「おやすみ…」
一言、言語を話し眠りにつく。
それは感情が乗っていない女性のような声であった。
猫が人の言語を話した。
体毛が真っ白になっているのだ、泥や血は全て取れ汚れなど一切ない、風に綺麗な毛並みが揺れている。
天使の翼を食べ終わった時に猫の姿は変わったのだ。色が変わったり言語を話せたのは、きっと天使の翼を食べた影響だろう。
「にゃふ…」
ここに1つのイレギュラーが生まれた。
悪魔を倒すことができる存在の誕生、
世界を救い、人類を守る事ができるかもしれない存在。
だが、
「……」zzz
その存在は世界を救うかはわからない。
だって凄い力を手に入れたって、
元は猫なんだもの、そんな難しい事は気にしない、自由気ままに生きていく。
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