第3話 エディア王家
王家探訪
数日後、何とか立ち直ったフォルスはティロ・カルディアの周辺ではなく違う場所へ行こうと言いだした。
「歴史資料館ですか……?」
「気分を変えてね、犠牲者とか被害者以外のことを調べてもいいかと思ったんだ」
エディアの街並みをあまり見ないようにフォルスは呟いた。
「僕は今まであの人のことばかり考えていたんですけど、そうじゃなくてやっぱり災禍という事実をしっかり見つめないとあの人の痛みは全くわからないと思ったんです」
先日突きつけられたエディアの人々の悲しみに、元王子としての罪悪感を無視することはできないと悟ったフォルスは、徹底的に災禍に向き合う覚悟を決めたのだった。
「それで歴史資料館、ですか……」
フォルスが災禍と向き合う覚悟を決めたのはわかったが、それが今から向かう資料館とどう結びつくのかセラスには今ひとつ理解が及ばなかった。
「僕自身がどうというわけではないけどさ、災禍時に僕ならどうしていたのかとか、僕に相当していた人達は何をしていたのかとか気になってさ」
フォルスは災禍を個人の体験談からではなく、リィアが占領したとされる日に何があったのかの公的な記録を求めているようだった。
「確か、エディアの王家は……」
「占領してきたリィア軍によって、即刻処刑されたんだ。リィアでの表向きは災禍の責任という形になってるけどさ……エディア側の資料にはどう書いてあるのか知りたくなった。そんなものがあれば、って話だけど」
災禍を少し調べれば、エディア王家の末路はすぐに出てきた。街中が大混乱に陥り、そこにやってきたリィア軍により抵抗も出来ず城を明け渡し、翌日には災禍の全ての責任は港の管理が出来ていなかった王家にあるとして即刻全員が処刑されたのだった。そこからなし崩しにリィア軍による復興と圧政が始まった。思いの外リィア軍はエディア国民に優しく、これにより「王家の失態が災禍を招いた」というリィアの主張は次第に人々に受け入れられていった。
「僕は父さんから『いつかはそうなるかもしれない』って言われていつかそんな感じで死ぬだろうってつもりで育ってきたから覚悟はいつでもあったけど、ある日突然自分の国を吹き飛ばされて、次の日にいきなり殺されるなんて、僕ならどう思うんだろうって」
「結局、災禍の発端の話になるんですね」
先日フォルスが直接災禍の被害を目の当たりにしたことで体調を崩すほど心を痛めたというのに、更に災禍の発端について知りたがるフォルスにセラスは心が痛んだ。
「向き合うのは怖いけど、多分向き合わなきゃいけないんだ。そうでないと、何のためにここまで来たのかわからない」
資料館の扉を開くフォルスの声は震えていた。
「あの人の手がかりを探すためでは?」
「それもそうなんだけど、やっぱりここを避けては通れないと思うんだ」
「そうですか……あまりご無理をなさらないでくださいね」
歴史資料館は立派な建物で、中に入ると高い天井が二人を出迎えた。書物を守るために薄暗い屋内には机と椅子と、資料を収めていると思われる本棚が並んでいた。
「何かお探しですか?」
「あ、ここの方ですか?」
奥からフォルスたちの気配に気がついたのか、一人の老女が出てきた。
「私が今は資料館の館長をしています。ここは占領前まで王宮として使用されていたんです」
「そうですか……僕たち、エディアの王家について知りたいんですけど」
フォルスは身分を問われたら、歴史学を専攻している学生であると言おうと思っていた。これから調べることに関しては、新聞記者見習の名刺は相応しくない気がしていた。
「いつ頃の話ですか? 建国時ですか? みなさん知りたがるのは4代目の時代ですね。鉄道と造船に力を入れ始めた時代なので」
「一番直近の……最後の女王です」
その言葉に、老女はため息をついた。
「実は、最近の資料は占領下では編纂が難しくて閲覧には不向きになっていまして……あまりよいものが残っておりません」
「そうですか……」
フォルスががっかりしていると、老女から思いがけない申し出があった。
「もしよかったら、私が直接お話しましょうか?」
「直接ですか!?」
老女を見据えると、老女は2人に弱々しく笑いかけた。
「はい。私、こちらの建物に女中筆頭としてマレーネ王女様の御一家に仕えておりましたステラ・ブルーバックと申します。占領後は……こうして、この建物を守っています」
ステラは奥へ2人を案内して椅子に座らせると、その前に腰を下ろした。
「さて、どこからお話しましょうか……最後の女王、マラキア・エディア・モレルの治世ですね。マラキア陛下は先代の三姉妹の長女に当たりまして、先代がお亡くなりになってから即位されました。まだ年も若く不安視される声もありましたが、先代からの側近に忠実な家臣たちからの信頼はとても厚かったのです」
「陛下は大変聡明な方で、私も惚れ惚れとするような魅力をもった方でした。それは妹君のマレーネ様も同じく、マレーネ様のご一家の尽力、そして私どものような家臣によって王宮はなりたっておりました」
「元々エディアは商船をたくさん保有していた一族によって港が開かれ、クライオより独立した比較的新しい国です。そこに造船と最近は鉄道の事業が加わり、他国に比べて領土は狭くても十分渡り合える国力がありました」
「エディア軍も立派なもので、優秀な剣士によってそれはそれは勇ましいものでした。特に剣技は盛んで、わざわざ他の国から剣技を習いに来るような者もたくさんいたんですよ」
そこでセラスが一瞬身を乗り出したのをフォルスは見逃さなかった。
「しかしそのエディア軍も、災禍の前にはどうにもなりませんでした」
ステラの話は、災禍当日へと移ろうとしていた。
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