過去の痕跡
シェールの噂についての話をしている中で、フォルスはシェールの弱みである子供の存在の発覚が、実は自身の手によるものと明かした。
「じゃあアレはあなたの仕業だったんですか!? 大変だったんですよ!!??」
セラスはフォルスがやってくる直前、クライオから「絶対貴方の子供に違いない」という手紙をもらったシェールが慌ててクライオに確認に行き、落ち込んで帰ってきたという顛末を思い出していた。
「僕はオルドでも一応話を聞いてきたんだけど、どこに行っても派手に女で遊んでるって話か女に入れあげてダメになってるって話しか聞かなかった。つまりどこかを漁ればそういう話が出てくるに違いないって思ってね……ダメだった?」
「いや、ダメじゃないですけど。むしろわかってよかったと思うんですけど……相当落ち込んでましたよ。自分がされて嫌だったことをしてしまったって……もうどうするか毎日悩んでるところだったんですよ」
クライオには「少し考える時間をくれ」と伝えてあった。シェールにとって一番の懸念事項は体裁や金銭的なものよりも家族という枠で過ごしたことがないどころか憎悪すらしていたために彼らをどう扱ってよいのか全くわからないところだった。いつフォンティーアに相談するか悩んでいるところに、フォルスがやってきたのだった。
「いいじゃない贅沢な悩みだよ、家族が増えたんだから」
「じゃ、あなたも家族を増やしてみたらどうですか?」
セラスの嫌味にフォルスは軽く答える。
「僕? 遠慮しておくよ、いろいろ大変そうだし」
「全く……」
セラスは目の前に伸びる道を眺めた。シェールについての長い話は終わったが、エディアの首都まではまだまだかかりそうだった。
***
エディアの首都まで徒歩で向かっていたフォルスとセラスだったが、立て札によると大分首都へ近づいてきたことがわかった。フォルスはせわしなく街道を見渡しながら歩くようになった。
「そろそろこの辺りからかな……?」
「何ですか、何か探しているんですか?」
フォルスは元特務の2人から話を聞いた後、リオから「そう言えばこんな話があった」と新たな情報をもらっていた。
「実はですね、例の事件が起きた現場の場所らしい情報があるんです」
ティロが姉と埋められた事件の現場と聞いて、セラスの表情が険しくなった。
「それはどこなんですか?」
「エディアの首都から徒歩で30分ほど……この街道沿いです。道から少し離れたところに今は使われていない宿場があって、そこで事件が起きたらしいんです」
リオが言うには、ノットが倒された際にティロが「俺に何かあったら今から言う場所に女の死体が埋まっているから丁重に埋葬してほしい」と言い残していたということだった。
「その宿場も実在するんですか?」
「それを確かめようと思いまして。地図で確認しても、首都近くにそれらしい側道はありませんでした。つまり、今は使われていない道ということです」
セラスはやっとフォルスが徒歩を選択した理由がわかった。
「なんだ、もっと早く言ってくれたらよかったんですよ」
「だって……何か言いにくかったんです。興味本位みたいで」
もちろんセラスはフォルスにそんなつもりはないことはわかっていた。しかしティロの姉の遺体があるかもしれない場所を探すというのは、あまりぞっとしない話であった。
「使われていない道、ということは下手をすると見落とすかもしれないですね」
「話によると当時から使われていなかったってことです。今でも残っていればいいんですけど……」
しばらく街道を注意深く歩いていると、セラスが腕を上げた。
「あれじゃないですか?」
フォルスがセラスの指さす方を見ると、首都へ真っ直ぐ伸びる街道から整備されていない細い道が伸びているのが見えた。
「確かに道がありますね」
2人は雑草に覆われて消えかかっている細い道を進んでいった。途中にはかつて立派な案内の看板だったと思われる木の板が朽ちた状態で放置されていた。
「随分寂しい場所ですね」
「少なくとも20年以上放置されてきた場所だからね」
しばらく歩いて行くと、開けた場所に出た。そこは雑草で覆われていたが、数軒の朽ちた家屋が確認できた。
「昔の宿場かな……確かに宿場は存在していたんだ」
家屋の入り口は閉ざされていたが、その扉はボロボロで今にも崩れ落ちそうであった。かつては洒落た作りだったであろう建物も至る所に穴が空き、奥に見える厩に至っては屋根が半分壊れて落ちていた。
「あの人は嘘をついていないんだ、おそらくあの人はここで埋められたんだ」
それと同時に、あることに気がついたフォルスとセラスは顔を見合わせた。
「でも、そうなると妙なことになりますよ」
「ええ、謎が増えちゃいましたね」
「災禍から焼け出されて、どうしてあの人たちはこんな街道を夜中に歩いていたんですかね……一体どこへ向かっていたんでしょう?」
今まで街道を歩いてきたが、きれいに整備されていただけで特に何かがあるわけでもなかった。この辺りまでは流石に被害はなかったようで、首都からこれだけ離れた場所で姉弟が何から逃げていたのか2人には検討もつかなかった。
「じゃあ、行こうか」
フォルスは廃屋を確認するとさっさと踵を返した。
「お姉さんは確かめないんですか?」
「ここまで来たら、信じるしかないよ。それに、僕なんかがここに入ったらいけない気がするんだ」
フォルスはそう言ったが、セラスは不気味さにそれ以上踏み込みたくないからだと思った。
「それもそうですね……じゃあ、戻りましょうか」
急いで元来た街道まで辿り着くと、2人はやっと落ち着いた心持ちを取り戻した気がした。過去に凄惨な殺人が行われたと思うと、それだけで2人は息が苦しくなるような気分になっていた。セラスは急いでその場を離れようと足を速めた。
「なんで急に早足になるんですか?」
「それは、もうすぐ着くと思うと自然と足が動いちゃって」
セラスはそれらしく言うが、実はフォルスには言えない事情があった。
(あそこに誰かが出入りしているなんて、この子が知ったら更に奥に行くって言いますものね)
セラスの見た限り、道の雑草には何度か踏みしめられた跡があった。つまり何者かが2人が訪れる前にあの廃墟へやってきていることは明確だった。
(取り壊すための調査員なんてことになったらがっかりするだろうし、良からぬ者の場合流石に私でも一人で対応したくないですし……)
様々な情報が錯綜してきたため、セラスは気分を変えようとフォルスに話しかけた。
「結局何なんですかね、あの人」
フォルスは廃屋を実際に確認して、改めてティロの災禍孤児説を信用するしかなくなっていた。
「災禍で焼け出されてお姉さんを殺されたっていうのは多分本当なんでしょうけど、それ以外は謎だらけなんですよ。デタラメな剣の腕、家族を巻き込んだ復讐、それにリィアを恨んでいるはずなのにどうして僕を助けるようなことをしたのか」
セラスはそれ以外にどうしても気になることがあった。
「あの、どうしてそんなに躍起になってるんですか?」
「さあ……どうして僕の命があるのか、それだけでも聞き出さないと僕の気持ちが収まらないんですよ」
フォルスの答えにセラスは納得できなかったが、それ以上の追求はしないことにした。
「まあ、とりあえず今からはっきりさせましょうか」
何とか日暮れ前に首都の街並みが見えてきた。復興してからまだ十数年という新しい街が2人の前に広がっていた。
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