死んだはずの人間
「まず、一体どういうことなのか説明して頂戴!」
失踪したはずのフォルス・リィア・ラコスの突然の来訪にフォンティーアは憤慨していた。更にこの騒ぎでシェールも呼び出され、屋敷の客間にフォルスとフォンティーア、そしてシェールと事情が一切飲み込めないセラスが対峙することとなった。
「説明してもらいたいのは、どちらかというとこっちなんだよね」
敵対心を顕わにするフォンティーアを前にしても、フォルスはふてぶてしい様子を続けた。
「大体、君らの仕組んだ反乱とやらはまだわかるんだ。でも、何で僕だけ助けられたのか、それだけがわからないんだ」
「それよりも、あいつはどこに行ったんだ!? 今どこにいるんだ!?」
フォンティーアに負けずとシェールもフォルスを追求した。
「あいつって誰ですか? もしかして僕を連れて行った人のことですか?」
「そいつだ! 元リィア国上級騎士隊三等ティロ・キアンだ! しらばっくれてもあいつがコールから抜けていったという証言はあるんだからな!!」
フォルスはフォンティーアとシェールの剣幕に怯むことはなかった。
「まあまあ落ち着いて……別に僕はあなた方に復讐しようだなんて思っていませんし、僕を中心にした組織なんてのもありません。ただの新聞記者見習いというのが今の僕の正式な身分です」
「その見習いが今更何の用だってこっちは聞いてるんだ!」
「ちょっと協力してほしいんですよ、あなた方がさっきから言っている人物と、僕が探したい人物、多分一緒だと思うんで」
今まで何が起こっているのかわからなかったセラスはようやく事情を理解したようだったが、口を挟む余地がなかった。
「探したいって……奴はまた逃げたのか?」
逃げた、という言葉にフォルスは初めて寂しそうな顔を見せた。
「だいたい1年半くらい前に、ある朝突然いなくなってました。それまではずっと一緒にいたんですけどね」
「それで、どうして俺たちが協力しないといけないんだ?」
「だって、探そうにもあの人のこと僕は全然知らないんですもの。あの人の行きそうな場所に心当たりとかあります?」
「知らん、そもそも俺たちもあいつのことを深く知ってるわけではないからな」
「それじゃあ、深く知ってる人とか紹介して貰えませんか?」
「何で俺たちがお前如きの頼み事を……」
図々しく頼むフォルスにシェールが掴みかからんばかりに食ってかかったが、フォルスは涼しい顔をしていた。
「シェールさん、でしたっけ?」
フォルスはシェールの前に二本指を立てて見せた。
「クライオに、そうでしょう?」
途端に、シェールの顔色が変わった。セラスも手で顔を覆い、頭を振った。
「僕ね、見習いだけど新聞記者なんですよ」
「わかった、やめろ! 畜生、なんてガキだ……」
「ガキじゃないですよ、この前成人しました」
「そういう話じゃないっての、全く……」
急にたじろいでフォルスの言いなりになるシェールに、フォンティーアはフォルスに対する怒りを一瞬忘れた。
「ちょっと、何で言うこと聞くのよ」
セラスもシェールの秘密を知っているようで、その表情は普段のセラスらしからぬ慌てたものであった。
「すみません、私が後から詳しく説明しますから……」
「いや、こうなったら俺が直接話す……ごめんなさい、フォンティーアさん……」
にやにやと状況を見守るフォルスに、フォンティーアは向き合った。
「……まあいいわ。それで、あなた帰るところはあるの?」
「今は住み込みで働かせてもらってますので、その心配はないですね」
「そう。でも今の貴方には監視が必要ね。シェール君」
フォンティーアの声は氷のように冷たかった。
「は、はい……」
「今後、彼をぎっちり監視すること。あと、その二本指について詳しく教えること」
有無を言わさぬフォンティーアの圧力にシェールは圧倒されていた。
「あの、こいつの部屋は……」
「あなたの部屋でいいでしょう。それよりも今夜はもうこのくらいにして、明日の夕方から、また詳しく話を聞くとしましょう。それでいいかしら、殿下?」
フォンティーアの圧にフォルスは怯むことなく答える。
「久しぶりだね、その呼び方。いいですよ、キオンで」
「そう……随分落ちぶれたものね。いい気味だわ」
フォンティーアはそう言い捨てると大きな音を立てて客間から出て行った。
「あの……義兄様、一体これはどういうことなんですか?」
ようやく声が出せたセラスが問いかける。
「どうもこうも、こいつはリィアの第二王子で、その……こいつをな、その……」
シェールがどう説明していいか考えているところを、フォルスが口を挟む。
「そう、ごめんね自己紹介が遅れて。僕の本名はフォルス・リィア・ラコス。処刑されたはずの死んだ人間だ」
セラスがフォルスを凝視し、フォルスは更に続ける。
「それでね、ちょっといろいろ調べ物をしたくて戻ってきたんだ。僕を連れて行ったティロ・キアンって人を探しにね」
セラスはシェールを凝視した。シェールは逃げるように客間を出ると、フォンティーアを追いかけた。客間に残されたセラスは気まずい様子でフォルスを見る。
「びっくりしているんだろう、死んだと思っていた奴が急に生き返ったんだから」
「ええ……死んだという知らせよりもこれは心臓に良くないですね」
セラスは大きなため息をついて、一気に去来した様々な感情をどう整理するか悩むことになった。
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