第3話 新体制
残留措置
反乱から一週間が経ち、新政権の拠点が正式に設立されることになった。それまでの王制を廃し、当面はフォンティーアを中心とする執行員が中心となって軍主体の政治から新たな政治の仕組みを模索していくことになった。軍部に関してはシャイアを中心とした元リィア打倒戦線の面々が新たな警備体制と軍事面を引き継ぐことになった。
ビスキとオルド、エディアはそれぞれが自治領として再出発することになった。戦火の爪痕が記憶に新しいオルドや未だに災禍の影響が残っているエディア、そして過激派との内戦が続くビスキとそれぞれに課題は山積していた。
コールから帰還したリクはシャスタとリノンの処遇について、とりあえず本国へ持ち帰ることにした。基本的にシャスタを自身の元で再教育しながら、リノンとの結婚の話は保留にすることになった。
「ところで、君のことなんだが……」
オルドに帰るロドンは、再度シェールに一緒に来て欲しい旨を伝えた。
「帰らないぞ、俺は」
「そんな訳にはいかない、オルドを立て直すのに君の力が必要だ」
「うるさい、俺はもうオルドは名乗らないしあんな国にも帰らないぞ」
「しかし、皆が待っているはずだ」
「どこの誰が待っているって? 具体的に誰が!? 知ったことか!」
「じゃあ君はこの先一体どうしていくつもりなんだ!?」
「どうもこうもそっちの都合なんか俺は知らないし、もう俺は好きに一人で生きるんだ!」
完全にへそを曲げているシェールをどうしたものか悩んでいるセラスの脇を、フォンティーアが通り過ぎた。
「まあまあ、えーと、そう、両方落ち着いて」
「何ですか?」
不機嫌になっているシェールをよそに、フォンティーアはロドンに提案した。
「オルドには帰りたくないみたいだし、よければ彼、私に任せてもらえないかしら?」
「しかし……」
いきなりの申し出にロドンは驚き、シェールはフォンティーアにも敵意を顕わにし始めた。
「何だよ俺をモノみたいに! 俺はなあ!」
「あなたは少し黙りなさい」
動じることなくフォンティーアはシェールを制した。そのきっぱりとした態度にシェールも黙らざるを得なかった。
「事情はよくわからないけど、確かに彼が欲しい気持ちはよくわかるの。あの混乱した時期にクライオまで逃げて、更に何故かオルドの精鋭が集まってきて、更にクライオの有志まで集めてここまでやってきた。並大抵の根性じゃこんなことできないわ」
「あの、それは……」
フォンティーアの評価に、シェールは俯いてしまった。
「何?」
「それ、全部俺は何もしてないです。クライオに行ったのも、オルドの精鋭が集まったのも、クライオの有志を揃えたのも、みんな周りが整えたことで、本当に俺は何もしてないから、その……」
「そういうところよ」
「え?」
シェールは思いがけないという顔をフォンティーアに向ける。
「あなたのそういうところを、皆が欲しがってるの。まだわからないの? 自分が何者なのか」
「……正直、何もわからないですね」
フォンティーアに真っ直ぐに褒められたのにも関わらず、シェールはそっぽを向いてしまった。
「じゃあ私がわからせてあげる。しばらく私の下でこき使ってあげる。それで自分が何なのか言えるようになったら解放してあげる。そのときはどこにでも好きなところに行きなさい」
「でも……」
フォンティーアの提案を、シェールは素直に受け入れていいのか迷っていた。
「何か異論は?」
「俺なんか使っても、どうせ何の役にも立たないんじゃ……痛っ!」
渋っているシェールの脇腹をセラスが思い切り小突いた。
「義兄様! またそうやって他人の好意を踏みにじるようなことを言って!」
「何だよお前が口出すことじゃないだろ!」
「いいじゃないですか、ろくでなしのゴミみたいな義兄様を使ってくださるって有り難いお申し出なんですよ! ここで断ったら人間としておしまいです!」
「何でお前にそこまで言われなきゃならないんだよ!」
セラスはわざと大声でまくし立てる。
「あー! さては、リィアの立て直しなんて大事業に怖じ気づいたんですね!?」
「そんなわけあるか! リィアの立て直しくらいどうってことないんだからな!」
「それならやってもらいましょうかね!」
セラスの挑発に乗ってしまい、フォンティーアの目が輝いた。
「あ……今のナシ! セラス、お前卑怯だぞ!」
シェールが何か喚くがセラスは構わず、フォンティーアの方を向いた。
「フォンティーアさん、すみませんこの人面倒くさくて」
「いいのよ、その方が賑やかになりそうで」
フォンティーアがこうしてシェールを獲得したことで、ロドンは不機嫌になった。
「しかし、オルドの再興が……」
「それなら俺たちがオルドに帰ります、それでいいですか?」
見かねたセイフがロドンの前に立ち、そっと耳打ちした。
「あのですね、ここだけの話ですけどあいつ反乱に関しては本当に何もやってないんです」
「何だって?」
「基本的に作戦系統も指揮も元々訓練されてきたオルドの上級騎士たちが全部お膳立てしてます。あいつはライラを連れてきたことと、後はいろんなことを総括していたくらいです。後は……その……」
「やっぱりそうなのか?」
聞きにくそうにロドンはセイフに低い声で尋ね、それにセイフは頷いた。
「俺はリィアに押しつけていくことをおすすめします。それに、これは個人的な感情なんですけど……」
セイフは言いにくそうに続けた。
「オルドに戻りたくないっていうのを尊重してやりたいんです。そのためにこれまで嫌なオルドの名前を背負って来たんです。これが終わったらもう二度とオルドなんか名乗るものか、って何度も言ってました」
「それほどなのか……一体彼に何があったんだ?」
セイフの声は低いままだった。
「これからオルドの再興を目指す人は知らない方がいいことです。多分オルドが嫌いになります。正直、俺も知りたくなかった」
その言葉にロドンは事の深刻さを理解するしかなかった。
「そうか……それでは、オルドが無事再興したらいつか本人から聞いてみるか」
ロドンは軽口を叩き、話をセイフ本人に移した。
「ところで、アルゲイオ家の生き残りが君たち兄妹なのか?」
「そうです。母が兄嫁と姪と一緒に避難していて無事なはずです。避難中に兄嫁は子供を産んでいるので、甥もいるはずですね」
「その兄というのは……ビュート・アルゲイオのか?」
セイフは長兄の名前を聞いて、ロドンに笑顔を見せた。
「はい、手紙によると二人とも兄にそっくりだそうです」
「それは頼もしいな」
ロドンはすっかりシェールをオルドに連れて帰るのは諦めたようだった。
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