発起人
コールへ向かったリクとシャスタから「失敗した」とだけ綴られた知らせが届き、リィアでは二人の帰還を待たずに関係者の処刑を断行することにした。全ての処刑にはフォンティーアが立ち会い、最後に現リィア王にしてダイア・ラコスの息子であるヴァシロ・ラコス・リィアとセイム・リィア・ラコスの番になった。これには代表者が反乱の集大成として集まっていた。
処刑は公開されず、リィア軍が革命思想を持つ者を処刑していた部屋で行われた。その部屋にこびりついた血の跡が過去にこの部屋で何を行っていたのかを物語っていた。
「覚悟は出来ている、どうせこうなると思っていた」
ヴァシロはこれから処刑されるというのに、晴れ晴れとした顔をしていた。
「もう少し往生際が悪くてもいいのよ、全く張り合いがなくてつまらないのよ」
フォンティーアは熟々とヴァシロを眺めた。かつてフォンティーアの父を死に追いやった憎らしい男の面影をどうしても探してしまう。
「確信したのはエディアが落ちた後からだ。父が死んでも、全ての責任が消えた訳では無い。せめて私たちの命で悲しみを精算してほしい」
最期に綺麗事を並べるヴァシロにフォンティーアは激昂した。
「ふざけないで! それならさっさと死ねばよかったじゃない!」
「自決では意味がないんだ。おそらく、君に殺されることでしかこの様々な感情は晴れない。できれば君が引き金を引いてくれないか?」
「そんな、今までよくおめおめと生きながらえてきたくせに……」
「君にはわからないよ、殺した方の息子の気持ちなど」
「ええ、わかり合えないままでいいのよ。わかった、最期の頼みくらい聞いてやるわ」
フォンティーアが手を差し出すと、その手に銃が渡された。
「フォルスは生きてるのか?」
この場にいないもう一人の息子のことについてヴァシロは尋ねた。セイムからフォルスが連れ出されたことは聞いているようだった。
「おそらく、考えうる限り最強の護衛がついているから生きているはず」
「リードを倒したのだったな……全く、最後まで何が起こるかわからない人生だったよ」
ヴァシロは苦笑した。
「息子より先に死ねるなら、少しだけ報われたな。ラコス家に生まれた者として一緒に連れて行くはずだったのだが、こんな形で親孝行な奴だ」
その後、ヴァシロとセイムはフォンティーアの手によりその生涯を閉じることになった。反乱の正式な終了による感慨の他に、処刑を見届けたシェールは今際のヴァシロの言葉がどうしても頭から離れなかったが、あまり考えたくもないことだったので考えないことにした。
***
「終わったのかしらね……」
処刑の全てを見届けたフォンティーアは呟いた。処刑部屋から出た代表者たちは、今後の方針を立てることになった。
「私が生きているうちに、再びクルサ家を再興できるだなんて思いもしなかった」
「それを言うならば、我々もこれほどまでに上手く事が運ぶとは思っていなかった」
ロドンが相槌を打つ。
「確かに、全ては発起人ライラあってのことだ」
シャイアがしみじみと呟いた。
「ところで……その反乱の立役者であるべき発起人ライラは今どこにいるのかしら?」
フォンティーアがライラの名前を出すと、その場にいた代表者が顔を見合わせた。
「非常に申し上げにくいのですが……」
反乱の後、ようやく遅れてやってきたライラはシェールに思わぬことを告げていた。そしてシェールは再び代表者たちに言いにくいことを言わなければいけないことになった。
「彼女は家に帰りました。私はやれるだけのことをやったから、後はよろしく、だそうです」
ライラからの余りにも軽い伝言に、代表者たちの間からため息が漏れた。
「あの……そもそも、彼女は一体何者なの?」
フォンティーアの疑問に、一同はお互いの顔を見合わせた。
「一体彼女は何がしたくて、こんな大がかりなことをしたのかしら? 私たちのようにリィアやラコス家に恨みがあったり、反リィア思想にかぶれているというわけでもなさそうでしょう?」
大まかなことを本人から聞いているシェールは再び背中に針が刺さるような気分になった。
「おそらく、彼女が最初に接触したのがうちだろう」
シャイアが首を捻りながら話し始めた。
「当初はリィアの政権を倒すにはどうすればいいのか、くらいしか考えていなかった。確かに、彼女に恨みや思想のようなものはなかった。だとしたら、何故こんな真似をしたというんだ? 君は他に何か聞いていないか?」
「え、あの……一応、聞いているんですけど……」
話を振られたシェールは、ライラから聞いた反乱の動機について話すべきか迷った。
「どんなことでもいいから、教えてくれないか?」
「はい……でも、怒らないでくださいね、俺が聞いた話ですからね……」
シェールは、ライラがリィア軍に恨みを持つティロ・キアンという人物のために反乱を画策したという話をした。流石にトライト家のことに関しては一切話す気になれなかった。
「じゃあ、その王子を攫った上級騎士のためだけに、こんな馬鹿げたことをしたっていうのか!?」
「知りませんよ、本人がそう言っていただけですから」
ライラが一人の男のために国ひとつを滅ぼそうとした、ということに代表者たちはそれぞれ眉をひそめ、皆が信じられないといった表情をした。
「……いや、あながち間違いでもないと思う」
シャイアが深刻な面持ちで呟いた。
「それなら全部説明がつくんだ。彼女が何故反乱の動機を話さなかったのか。思想も知識も一切持ち合わせていなかったのか。まさか本当に何も持っていなかったとは……」
「そうすると、結局私たちはライラじゃなくて、ティロ・キアンの手の平の上だったってことになるのかしら……? 非常に面白くない結末だけど、とりあえずリィアを奪還できたんだから、よかったということにしておきましょうか……」
何とも晴れない空気の中で、ロドンが口火を切った。
「それで、例のティロ・キアンについてどうするんだ?」
「おそらくこんなことを仕出かして、二度とリィアの地を踏むとも思えない。それなら、王子共々一生帰ってきてもらわなくてもいいだろう」
シャイアが苦々しく言い切った。
「でも、彼はリィアに恨みを持っていたはずなのよね? どうして王子を助けるような真似をしたのかしら?」
「どうせまともな奴じゃないんだ。考えるだけ無駄だろう」
「その意見には同意ですね。もうあいつのことを考えるのはやめましょう」
ロドンが言い捨て、シェールもロドンに続いた。
「確かに、それ以上のことは考えても仕方ないのは間違いないことね」
その後、代表者たちの取り決めで行方不明になったフォルス・リィア・ラコスとティロ・キアンを死亡したものとする決定が下され、フォルスは処刑されたとして、ティロは軍本部の火事に巻き込まれたということで死亡者の一覧に名を加えられた。この決定の背景を知るものは深夜の代表者会議に出席した者たち、そしてどこかで生きているであろうフォルスとティロのみであった。
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