反乱編
第1話 決行
失踪
ティロがいなくなったと錯乱したライラが飛び込んできたことで、明日首都へ向けて出発しようと士気が上がっていた反乱軍の一行はティロの捜索を余儀なくされた。
「そっちはどうでしたか?」
「いや、隠れられそうな場所は大体見た」
潜伏先から忽然と姿を消したティロ・キアンの行方を捜して一行は辺りを探し回ったが、それらしい人影はなかった。
「全く、作戦決行が明日なんだぞ! 何を考えてるんだあのバカは!?」
シェールは苛立ちを隠さなかった。明日には首都へ向かって他の反リィア勢力と共にリィア軍と戦わなければならない。自殺を示唆していたティロを放っておけないところではあるが、進軍をしなければならないのは事実だった。
「ライラの様子はどうだ?」
「ちょっと一人にできないですね……ずっと自分を責めてます、私のせいだって」
捜索から一度帰ってきたセラスにシェールはライラの様子を見に行かせていた。後を追いかねないほど取り乱していたライラに、今はビスキから連れてきたリノンが付き添っていた。
「本当にその痴話喧嘩のせいでいなくなったって言うのか?」
「そこのところは当人たちじゃないとわからないですけどね……」
ライラは自分がティロを追い詰めてしまったから姿を消したのだと思っていた。トライト家を埋めた場所へもライラは赴いていたが、ティロの姿はどこにもなかった。
「ダメだ、もうすぐ暗くなる。今日のところはそろそろ引き上げて明日に備えた方がいい」
ライラと山中に赴いて、更に周囲の捜索を続けていたシャスタが帰ってきた。その顔から成果は得られなかったことが察せられた。
「全く、手間ばかりかけさせやがって。もう問答無用で置いていくぞ」
怒りを隠さないシェールと対称に、シャスタは焦りを隠さなかった。
「だけど、ライラの言うとおり心配だ。俺が知ってる限りではこんな状況が2回目なんだ」
「前にもこんなことがあったのか?」
「ああ、その時は本気で入水寸前だった。俺が見つけていなければ本当に死んでいたかも知れない」
「入水って、リィアの川か?」
「海までは距離があるからな。街から外れた誰も来ない河原に一人でいた」
シャスタの話を聞いて、シェールはますます「海にでも捨てて欲しい」の声が現実味を帯びたことに恐ろしさを覚えた。
「そもそも、お前があいつの知り合いっていうのは何の偶然なんだ?」
「それは、そうだな。俺も驚いたよ」
シャスタはシェールに身の上を追求され、しっかりとシェールを見た。
「セラスが言うには、お前もリィアで育ったってことなんだよな?」
「ああ、あいつの剣技の癖は大体知ってるはずだ」
「じゃあどうしてビスキなんかにわざわざ行ったんだ? 反リィアならリィアの地下組織にでも潜ればいいだろう」
「だから、それはビスキが俺の出身だから馴染みのあるところに行きたかったんだよ」
「そうか……」
シェールはそれ以上シャスタの追求をしなかった。ただ、シェールは元リィアの特務であるシャスタがここにいることをどうしても偶然だとは思えなかった。
「あの……」
「何だ、見つかったのか!?」
捜索に出ていたオルドの精鋭が気まずそうな顔で戻ってきた。
「いえ、村のはずれの茂みの中に不審な男が倒れていまして……それが様子がおかしいんです。酔っ払いみたいなんですが、それにしてはあちこち怪我をしていて、まるで誰かに襲われたようなんです」
なんとなく「誰か」に心当たりがあったシェールとシャスタは顔を見合わせた。
「そいつはどうしている?」
「村の者でもなさそうなので、とりあえず連れてきてはみたんですが……」
連れてこられた不審な男を見た瞬間、シャスタの顔色が変わった。
「おい、そいつを寄越せ……おい、一体何があったんだ!?」
血相を変えたシャスタが男を揺さぶると、呂律の回らない様子で男は答えた。
「なんで、あんたがここにいるんだ……?」
「それはこっちの台詞だ、と言いたいところだが今はそんなこと言ってる場合じゃない。お前はティロ・キアンがどこに行ったか知ってるか!?」
「それを知ってどうする……?」
「また自殺未遂したんじゃないかって心配しているだけだ」
シャスタの只ならぬ様子にシェールは口を挟めなかった。
「ああ、またですか、あの人は……」
男は頭を抱えると、青白い顔をして低い声で呟いた。
「……逃げられた、おそらく首都に向かった」
「一体何故だ! 何で先に行く必要があるんだ!?」
「それはこっちの台詞ですよ。大体、何が起こってるんですか……?」
とりあえずわかったことは、この場にいる者で事態を正確に把握しているものがいないということだった。
「それで、こいつは誰なんだ?」
愕然としているシャスタと頭を抱えている男を前に、ようやく事態を把握したいシェールが質問することが出来た。
「リィアの現役の特務だ。どうせリオから呼び出されてここに来たんだろう?」
「お前、リィアを裏切ったんじゃないのか!?」
シェールは特務の名前が出たことで思わず大声を出した。
「俺は完全にあんたの味方だ。そこは信用していいぜ。こいつがここに来たのは完全に別件のはずだ、そうだろう? ノット」
リィアの特務、ノット・ラリアはシャスタの視線から逃れるように顔を伏せた。
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