22話 当たり前の日々

「福沢さんの側に居たい、ので。」


白髪の美しい少女は俺に頬を少し赤ながらそう云った。

どう反応すれば良いかわからず、少し黙る。


「あっあの、その、福沢さんが嫌じゃなければ、ですよ?」


そんな俺の反応に焦って注釈をつける。


「嫌なわけがない。そもそも俺が信夫を連れてきたんだ。嫌なら連れてくることはしない。」


「ほんとですか…?」


「嗚呼。」


「良かったぁ…。福沢さんは私の命の恩人なので、側に居て支えたいって思ってたんです。」


優しい笑みを浮かべ、ゆっくりと話す。


「だからずっと、嫌われないか怖かった…。でも、きっぱり嫌じゃないと言っていただけたのでそれで充分です!」


そうだったのか。

俺の様子を伺う姿はそんな不安から来ていたのか。

そっと彼女の頭を撫でる。


「…ふっ。その心配は杞憂だったな。覚えておくと良い。俺はこれから先信夫を嫌うことは断じてない。信夫が側に居る。それは俺の支えになっているんだ。」


「!…ふふふっ。ありがとうございます…」


そうして各々夕食を済ませ、眠りにつく。

久しぶりに彼女の隣で寝た。本来隣に人が居る状態で寝る事はない。しかし、彼女の隣は許せた。

何故だろうか、その理由は考えずとも判る。


俺は彼女が愛しい。


言葉で伝える心算はない。

側に居る。それだけで良かった。

何気ない日を変わらず送れるのであれば、それで良かった。彼女の手の届く範囲で側に居れるのなら…何も望まない。心に決めて、眠った。


翌日、夜明け前、信夫はまだ寝ている。

もう出発しなければならない時間だ。

今日の任務が早く終わればまた帰って来れる。


「…行ってくる。」


そっと撫でて、家を出た。


_____________________


「ただいま。」


人の気配がしない。

隠れて驚かそうにしても度が過ぎている。

家中探し回った。


「…信夫?」


帰ってきた時、其処に居るはずの彼女が居なくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る