21話 気づく想い
2ヶ月程、折口はあの道場に通い続けた。
他の道場生には会わぬようにと福沢に云われているので、源一郎以外の人に会った事が無い。
しかし彼女にとってはそれで十分だった。
源一郎と毎日全く異なる話をしたり、剣を教わったり、祝い事があればささやかな祝いを2人の間でしたり。
いつしか源一郎は彼女にとって毎日を輝かせてくれる英雄で、同時に大切な人になっていた。
感情や表情、日常で些細だが重要なモノを教えてくれた彼を彼女は確実に慕っていた。
しかし福沢はそれを気に入らなかった。
「それでね…!源一郎さんが最近教えてくれてるんですけど、剣って本当難しいんですね。竹刀を握って振るは良いけれどなんか、軌道が曲がっちゃってるみたいで上手く振れないんですよ。」
「そうか。」
「何かコツがあるんですか?って聞いても答えてくれないし…」
今日も彼女は元気そうに話す。
以前であれば微笑んで彼女を見れたのに、今となってはどうだ。
口を開けば源一郎との話。
それほど俺と過ごす時間の短さを実感する。
否。俺は何を云っている。
何故彼女の喜びを共感してやれない?
何故こうまでして源一郎を嫌がるのだ。
「……福沢さん?」
「あぁ…。どうした。」
「何か…嫌な事、しちゃいましたかね…?」
「は?え、あ、否…何故そう思う?」
「何と云えましょうか…こう…気配がぶれてるんです。」
「…?」
「え、あ、ええと…な、何と云えば伝わるかな…所謂、雰囲気がピリついてる、って事ですかね…。気配の枠組みが揺らいでる様に思えたんです。」
…真逆。
俺は、信夫に特別に思っていて欲しいのか。
彼女が俺に感じている違和感を伝えようと試行錯誤する姿が、嬉しい。
源一郎の事を考えていると思うと、不快感が身体をめぐる。
初めての感覚に戸惑う。
「福沢…さん?」
「嗚呼…すまん。不安にさせてしまったな。」
「いえ、私が気分を害してしまったので…」
「構わん。そもそも気分は害していない。」
そう云って静かに食事を口に運ぶ。
気まずい沈黙が続く。
「…信夫。」
「は、はいっ。」
「俺にそんな気を使わなくて良い。」
「え…?」
「気配を読みすぎなくて良いと言う事だ。信夫は俺に支配されてる訳でもない、かつ俺は上司でもなんでもない唯の他人なんだ。」
「で、でも…。私は、この場所で何もできないのに、居させてもらってますし、私は…その…。」
「?」
「福沢さんの側に居たい、ので。」
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