4話 迷う銀狼

「…俺は何をやって居るんだっ…⁉︎」


彼女が眠りに落ちた後、銀狼としての己が蘇る。

標的を己の意思で生かし助けようとするなんて、あってはならぬ。


今ならまだ間に合う。

刀を鞘から出す。


だがどうしても刀を振り下ろせなかった。


透き通ってしまいそうな程白い肌と髪が、彼女の儚さを引き立てる。恐ろしい程浮き出た骨が、彼女の脆さを引き立てる。

こんなにも弱くなったと云うのに、心の優しさは確かに持つ。


如何して壊そうと出来る?


刀を鞘にしまい、彼女を抱き上げる。


(…軽過ぎる。そして…少し冷たい…。)


今迄良く生きてこられたなと思える程軽い。

開いた首元を見ると、鎖骨がこれでもかと云うかの様にはっきりと浮き出ていた。


(今は早く森医師に診せねば。)


足早に部屋を後にする。


______________


「エリスちゃん、今度ドレス買いに行こっか」


「一昨日買ったばかりじゃ無い。私もういらない。」


デレデレの森鴎外医師と絵を描きながら素っ気なく答えるエリス。


「えぇ〜?ほら、玩具も買ってあげるから、行こう?」


「ほんと?玩具買ってくれるなら行く」


「じゃあ決まりだね、明日…否、急患が居ないから今からでも…。おや、珍しい患者が来たね。」


「森医師、診て欲しい者が居る。」


「今晩は福沢殿、急患ですか?」


福沢が抱いている少女を見るなり目を変えた。

きっと彼女の垂れ下がる腕から異常を察したのだろう。


「嗚呼、この者だ。気をつけろ。異能者だ。」


「判りました。因みにこの子は何処から連れて来たんです?」


「私の任務地からだ。これ以上詳しい事は云えない。」


「成る程。其の情報で十分です。にしても珍しいですね。任務地から連れてくるなんて。」


「…自分でも驚いて居る。」


「……白子、か。」


「白子?何だ。食べたいのか。」


「嗚呼、違いますよ。白子はアルビノと云う先天的なメラニンの欠乏症です。」


「彼女は…此の者は助かるのか…?」


「長年十分に食事を与えられていなかった様ですね。恐らく1年程度で回復すると思いますよ。」


「そうか。」


「今回は本当に珍しいですね。任務地から人を連れて来て、助かるか気にする。そんな事今迄にありましたっけ?」


「…唯の私情だ。気にするな。」


助かると聞いた瞬間、安心した自分が居た。

何故かは本当に判らない。

唯、生きていて欲しいと、そう願ってた。

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