2話 銀狼と死を乞う死神

人が急に全身から血を出して死ぬ。

最近の報道で偶に目にするようになった。


「…なんと物騒な…。」


何故其のような事をするのか理解できん。


今日の任務は、此の元凶を政府が掴んだ。

其の者の殲滅だ。

死を持って償え。


どれだけ生きたいと思って、毎日を必死に生きているのか、

理解出来ぬ者め。


地獄の底で理解するが良い。



__________________


思ったより地下深くにあり、

護衛を除き、殆どは武器も持たぬ一般人だった。


地下奥深くに薄暗く、重い扉に閉じられた部屋があった。


「…ここか。」


扉を開く。

すると溜まっていた血の匂いが一気に出る。


床には20人分はありそうな死体があった。

全て全身から血が噴き出た様だった。

憤怒が体の奥底から全身を駆け巡る。


奥に人が居る。


「…⁉︎」


そこには、何も持たず、ただ目を閉じて座っている少女が居る。

僅かに赤に染めた白いドレスを着た、白い長髪だ。

彼女は人形の様にただそこに居た。


(美しい…。そして、儚い…。)


一瞬目を疑った。

これは本当に人か?

人形…否、神のようだった。


然し良く見ると左目は縫われている。

彼女は誰が見ても判る程、痩せ細っていた。

関節が浮き出て、腕は枝の様だった。


…惑わされるな。

彼女が、元凶なんだ。

斬るべき者なのだ。


「今迄、大勢の人が死んだ。貴女が、殺して来たのだな?」


「………って…。」


「?」


「…斬って…くだ…い……。」


「⁉︎」


抵抗もせず、首を差し出す者に会った事がなかった。



「私は…大勢の、人を…殺した……。


私の…所為で…死んだ……。


私さえ、居なければ…良かった…のに…。」



儚く、掠れる声で話し始めた。



「私を……斬って…下さい……。


死を、持って…償い…たい……。


だから…斬って、下さい…。



これ以上、殺したくない……!」



涙を流して彼女は死を乞うた。


言葉が出なかった。

普通、生を望んで、赦しを乞うが、

己から死を望む者は居なかった。


……斬れない。


初めてそう思ってしまった。

此の少女は、違う。

元凶ではない。

周りの者どもが、彼女の能力を使って、殺しをさせて来たんだ。


そうでなければ、こんなにも心優しい状態で居れない。

涙を流しながら、人を殺し、

己の死を待ち、死を以て、赦しを乞う少女。


「生きろっ…!」


無意識に云っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る