痴呆

「なあ俺の名前って覚えてるか?」

「すまん、忘れた。逆に俺の名前は知ってたりするか?」

「自分の名前も思い出せないやつに聞かない方がいいぜ」

「それもそうだ。いや、そもそも今まで不自由なかったから実は要らないんじゃないか、名前」

「宅配便のサインができない」

「ジョンって書いとけ」

「書いたさ。でも先週と違うと怒られた」

「先週はなんて書いたんだ」

「思い出せたら困ってない。たしか、なんとかティヌス...ザウルス...?みたいなのにした記憶はある」

「確かか」

「いや、イメージだ」

「じゃあ今からお互いに名前を付けよう」

「いいね」

「決めた。俺が太郎でお前が二郎」

「嫌だ。俺がなんか下みたいだ」

「違うのか。生まれたのは俺のが2秒早かったと聞いたぞ」

「確かか」

「いや、イメージだ」

「じゃあ公平な名前にしよう。上下なく」

「そうだな。ジョンとジョナサン」

「俺、ジョナサンがいい」

「いや、俺がジョナサンだよ。お前にさん付けは早すぎる」

「ほらやっぱり公平じゃないじゃんか」

「すまん。ほらやっぱ俺たちは『おい、そこのお前』って呼びあってるくらいがちょうどいいのさ」

「いいこと思いついた。お前の名前を『お前』にすればいいんだ」

「とすると、そっちの名前はどうする」

「『あなた』」

「嫌だ。俺もそっちのがいい」

「ジョナサン?」

「違う。お前がさっき言ったあなただよ。俺はあなたの方がいいの。あなたはあなたじゃなくて俺のなの」

「訳わかんねぇ。ちゃんと言えよ」

「俺は『お前』がいい」

「そりゃありがとう」

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