第36話 委員長との話

 

「で、何であんなところにいたの?」


 本屋を出て、少し離れたカフェにつき俺たちはそこで話していた。

 未だにむすっとしている委員長が、そう訊いてくる。


「何でって本を買いに来ただけだよ。委員長こそどうして」

「どうしても何も私だって本を買いに来ただけよ」


 委員長ももう開き直っているようだ。何も隠すことなくそう白状してくる。


「でも委員長にそういう趣味あるだなんて知らなかったよ」

「そんなの当たり前よ。頑張って隠してきたんだから」

「別に隠す必要もないと思うけどな」

「私は葉山くんみたいに強くないの」

「……まあ、確かにそうかもな」


 俺はいじりに昇華することができているけど、もしオープンオタになっていじめられたら、って考えてしまうんだろうな。

 俺のオタクを嫌っている点で、女子はちょっと怖いからな。


「そうでしょう? だからバレたくなかったのに」

「そんなにバレたくなかったら、こんなに学校に近い本屋に来ない方が良かったんじゃないか?」


 俺たちの学校と本屋の距離はまあまあ近い。俺が来なくたって他に誰かが来ていた可能性も十分ある。


「私だっていつもは隣町とかまで行ってるわよ。でも今回はこの本屋が最速で販売されるって聞いて。最近時間もなかったから、早く買いたかったの」

「なるほどなぁ。その気持ちは十二分にわかるぞ」


 最速で手に入れれるといのは魅力だ。誰よりも早く読んでいるという謎の優越感に浸れるしな。

 委員長も相当なオタクなんだと感じさせな。そんなことを考えると思わず笑ってしまう。


「何笑ってるのよ」

「いやー委員長もオタクだなって思って」

「どういうことよ」

「俺と考えてることが似てるからな」

「それは貶されてるのかしら」

「なんでそうなるんだよ。褒めてるってわけでもないけどさ。でも、学校よりも話しやすいよ」


 学校での委員長は真面目すぎて、近寄りがたい雰囲気があったためなんだか親近感が湧くこっちの方が話しやすい。


「そう?」

「ああ。委員長としてじゃなくて、羽月沙織の本心が見れた気がする」

「なるほどね」


 委員長は何かを考えていたのか、少し唸っていた。しかし、すぐにこちらに顔を向けてくる。


「なら、プライベートの時は委員長じゃなくて、名前で呼んで欲しいわ」

「えっ? なんで」

「実際学校で委員長って呼ばれるのも少し堅苦しくて嫌だったし」

「そうなのか?」

「ええ、そうよ」

「なら沙織さんとか?」

「なんかさんつけられるのは気持ち悪いわ」

「なんだよそれ」


 気持ち悪いって少し酷くないか。ってことは呼び捨てか。


「沙織……とか?」

「……ええそれならいいわね」


 なんだか以上に恥ずかしかった。沙織も少し顔を俯かせて恥ずかしがっているし。なんなんだこの状況は。


「まぁ、それでよろしくね」

「ああ、わかったよ。だが一つ条件がある」

「な、何よ」

「俺のことも名前で呼ぶことだ」


 俺だけ恥ずかしい思いをするのは解せない。なら沙織にも、同じ思いを味わってもらうのだ。


「なんだ、そんなこと」

「えっ?」

「司、これでいいの?」

「あ、ああ大丈夫だけど」

「決定ね。これからよろしくね司」

「あ、ああ。よろしく沙織」


 これじゃあ俺だけ損しているような気がする。どうして恥ずかしくないのだろうか。


 そんなことを考えながら、二人でで帰路についた。


「それにしてもバレたのが、司で良かったわ」

「そうか?」

「ええ、司もオタクだし。あの双子に見つかってたら終わってたわね」

「はは……まあそうだな」


 あの双子も毎日ありえない量のゲームをやってるオタクなんだけどなあ。

 言っても信じてもらえなさそうだし、言わないが。


「それじゃあまた、たまにはこういう話しましょうね」

「ああ、俺も楽しかったよ」


 お互い手を振りながら、別の道を歩いていった。


 家に帰った後、桜に「女の匂いがする」と言われて、それを宥めるのが大変だったこと以外は、いい1日だった。

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