第35話 本屋での出会い
桜が出かけていった後、俺もすぐに家を後にした。
自転車で走り抜けること十数分ようやく目的地である本屋に着いた。
久しぶりに学校以外で自転車に乗ったななどと、ぼうっと考えていると何だか怪しい人物が前を通り過ぎる。
マスクをつけ、深く帽子を被った黒づくめの女。明らか様に怪しい雰囲気を漏らしながら、早足で本屋へと入っていった。
「なんだか、誰かに似ているような」
顔も何も見えなかったが、なんとなくそう思った。どことなく雰囲気からなのか。とりあえずそんなことを考えていても無駄なので、俺も本屋へと入った。
行き慣れている本屋だということと、久しぶりに来たということで、なんだかとても懐かしい気持ちになってくる。
本屋独特の匂いに少し胸を膨らませながら、お目当てのコーナーへと向かう。
「とりあえず、これと、これと……これもだな」
追っていた漫画の最新刊を次々と手に取っていく。少年系から4コマの日常系まで多種多様な本が俺の腕の中を埋め尽くす。
(本屋っているだけで面白いよな。新たな発見ができるし)
そんなことを心の中で思いながら、ぶらぶらと面白そうなものがないかと店内をうろつく。
すると、入り口で見かけた黒づくめの女が立っていた。
なんだか周りを気にしているようでそわそわとしていた。少し気になり、近くの本棚の前に立ち様子を見てみることにした。
(あくまで、何か悪いことをしないか見張るだけだ。いかがわしい理由は何一つない)
そんな自分を言い聞かすような言い訳を、並べていると黒づくめの女が手を伸ばした。
その女が手に取ったのは一冊の本。上裸の男が抱き合っている本。
ベーコンレタスか……。
なんとなく、その格好なのも、行動がおかしかったのも頷けた。
俺も最初に表紙が少しえっちなラノベを買う時は挙動不審になったしな。
わかるわかる、そんなことを考えつつ、俺はこの場から立ち去ろうとした。
その時、女の人は何かにつまづいたのか「きゃっ」と少しの悲鳴を上げるとドスンと大きな音を立てていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
つい心配になり、思わず駆け寄ってしまった。
声をかけてから気づいてしまった。ああいう身なりをしていたのだから、誰にもバレたくなかっただろうに。
しかしここまで来たら、引くことはできない。俺は落ちている帽子を拾い上げ俯いている女の人に手渡した。
「あ、ありがとう……って! 葉山くん!?」
「い、委員長!? こんなところで何してんの!?」
帽子を受け取りつつ、顔を見せた人物は紛れもなく委員長だった。
いつもと違いメガネを外し、お団子にした髪、それにマスクをしていても、わかる。
絶対に委員長だった。
「い、委員長? 何のことですかね」
「何って、委員長だろ?」
「知らないです」
「あれ? 二年二組の羽月沙織さんだろ?」
「……人違いですよ」
いきなり、裏声を出して誤魔化そうとする委員長。そんなことしても無駄だっていうのに……。
「それにさっき、葉山くんって」
「きっ、気のせいよ……です、お礼を言っただけ……です」
「ちょっとボロが出てるぞ……」
そんなに誤魔化さなくてもいいのに……。
俺の問いに観念したのか、委員長はマスクを外して髪を解いた。
「もう! ちょっとぐらい察してほしいわね!」
「何が?」
「こんな本買っているところなんて見られたくないでしょ!」
あからさまに怒っている委員長は、本を突き出してくる。
「別に俺は気にしないって、広めるつもりもないし」
「ほ、本当!?」
「そんなことするわけないだろ」
「そんなこと言って、脅したりするんじゃないの! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」
「ちょ、ちょっとは落ち着こうって!」
何だか大きな誤解をしている委員長を、周りに変な目で見られないように宥めつつ落ち着かせる。
「落ち着いたか?」
「多少は……」
未だ不機嫌そうなままだけど、ある程度いつも通りに戻ったみたいで一安心する。
「一旦ここから出ないか、買う本だけ買って」
「どうして?」
「さっき叫んだから、ちょっと注目浴びてるんだよ」
「えっ」
俺の言葉に驚きつつ、周りを見渡すとカァーと赤くなる委員長。
「わかった。とりあえず出ましょう」
「わかってくれてよかったよ」
俺も手に持っている本があったため、そそくさとレジへと向かい本を購入し本屋を後にした。
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