第30話 少しの余裕と疲れる三人
「鏡花ちゃん大丈夫?」
「授業中にウトウトしてるなんて珍しいよ」
「少し用事があって……」
授業間の休み時間。そんな甲高い話し声が聞こえてくる。
俺が無理をすると気付いてから、二人はいつもより少し長く狩りをするようになっていた。
そのため、だいぶ疲れが溜まっているのだろう。俺としては二人に無理はしてほしくないのだけれど。
「司も最近いつもより眠そうだよな」
「そうか?」
女子たちの話し声が聞こえてか、同じような話題を振ってきた。
「だって前も授業中怒られてたじゃないか」
「確かに、いつもはバレないように上手く寝てる司なのに」
「そりゃあバレる時だってあるって」
「で何してたんだよ。最近少し仲良くなってるし、鏡花さんと——」
「それはない!」
変な誤解が生まれる前にキッパリと否定する。こいつらはそういう事に鋭くなるから困る。
「本当か?」
「逆に俺と鏡花さんで夜遅くまで何かすると思うか?」
「まぁ、無いとは言い切れないだろ」
「鏡花さんが頭打って記憶喪失になってるかもしれないし」
「そっちの方があり得ねえって」
こいつらは妄想のしすぎで頭がおかしくなっているんじゃなかろうか。俺も人のことは言えないが、こいつらよりかはマシ……だと思う。
「で、結局何で眠そうなんだよ?」
「普通にゲームのイベントがあるからだよ」
「なーんだ。いつも通りの理由かよ」
「つまんねえな」
「わざわざ聞いてきたのにひでぇな!」
薄情な奴らだ。
そんなバカな話を続けていると、先生が入ってきて授業が始まった。
「はぁ、眠たいわね」
「後二時間なんて耐えられないよ」
「だらしないぞ二人とも」
昼休み。
三人で集まるや否や、二人は弱音を吐いていた。
「こんなことやってる葉山は何者よ」
「化け物みたいに言うなよ」
「実際化け物みたいな体力ですよ?」
「こんなの二週間もすれば慣れるからな」
「二週間ねぇ」
「すごいですね」
誰だって好きな事に夢中になっていたら、夜更かしが続く事だってあるものだ。別に普通だと思うんだけど。
「でもこの調子で行けばなんとか間に合いますよね?」
鏡花は嬉しそうな笑みでそう問いかけてくる。
「ああ、そうだな。プラス一個くらいも作れそうな余裕も出てくるかもな」
「それ作るくらいなら寝たいわよ」
「まだまだゲームに染まって無いなぁ」
「何よその言い方。うざいわね」
「冗談だって」
そんな廃プレイヤーなんかにならなくても、十分楽しめるもんな。
「メサイアさんは大丈夫なんですかね? あの人も高校生なんですよね?」
「らしいけど、要領よくやってそうな性格だし大丈夫なんじゃ無いか?」
「確かに。やることはしっかりやってそうよね」
ふと疑問に思ったのか、メサイアのことを訊いてくる。
まぁあいつはなんだかんだで大丈夫だろうな。
「なんだ、メサイアのこと気になってきたのか?」
「どういう意味ですか?」
「ほら、カプリスよりもメサイアの方が好きになってきたみたいな?」
少し鎌をかけてみることにした。これでちょっとでも移っていたら、うまく乗り切れるかもしれない。
メサイアに取られるのは少し癪だが。
「そりゃあメサイアさんはいい人だ思いますけど」
「けど?」
「私が好きになったのはカプリスさんだけです!」
「…………」
少し恥ずかしがりながら、それでいて少し怒っているような雰囲気が感じられた。
そのテンションのまま、話を続けてくる。
「私だけ言うなんて不公平です! お姉ちゃんと葉山さんにも言ってもらいます!」
「ええっ!?」
「なんで私まで……」
「言うって何を言えばいいんだよ」
「そうですね、お姉ちゃんは今のカプリスさんのことで葉山さんは私たちの子でも言ってもらいますか」
クソっ、こんなことになるなら、鎌をかけるなんて真似するんじゃなかった。
俺が悩んでいると、先に彩花が口を開いた。
「私だってカプリスのこと大好きに決まってるじゃない。カプリスのことを思ってる気持ちなら誰にも負けない自信があるもの」
「そ、そうか……」
「やっぱりそうなんだね……」
「二人ともそんな顔しないでよ!」
鏡花の次は彩花が、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
いつもは冷たい態度をとってくる彩花だけど、そうやって思ってくれているとわかると安心できる。
「次は葉山よ!」
「やっぱり言わなきゃいけないか」
「当たり前です!」
もう逃げられないよな。
俺は覚悟を決めて口を開いた。
「そりゃあ俺だってマールやルーナのことは好きだよ。でもそれが結婚に対する気持ちなのか友達に対してかが分からないって言うのが本音だな」
「なるほどね」
「どっちが今のところ好印象ですか?」
「どっちって言われてもな……」
リアルでもある程度優しいルーナとリアルでは厳しいマール。リアルは関係ないと言いつつ、知ってしまったら知らず知らずのうちに考慮してしまう。
でも、厳しくする理由も、恥ずかしさを隠している面があることもわかったし、その気持ちはすごくわかる。
「俺にはやっぱり決めれないな。優柔不断だし」
これが俺の答えだ。もう1年も経ったのだ。今更急いで結論を出す必要もないだろう。
俺の考えを察してかは分からないけど、二人は納得したように頷いていた。
「まあ、これが葉山よね」
「なんだか変わってませんね」
それは悪い意味で理解してくれているだろうけど、事実だから仕方がないよな。
やっぱりこの他愛のない時間が一番楽しいなと感じる昼休みだった。
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