第28話 メサイアの助け

「ふぅ、もう腹パンパンだ……」


 部屋に戻ってくるとご飯が詰まった腹を気遣うように、ゆっくりと椅子に腰掛けた。

 桜のやつ、腹一杯って言ってるのにずっと食べさせてくるんだもんな。断るわけにもいかないから、こんなにもお腹がパンパンだ。


「でも、やっとゲームができるんだ。幸い明日は土曜だし今までの遅れを挽回しないとな」


 ようやく待ちに待った週末なのだ。いつもよりも遅く起きていても問題ない。ちゃんとエナドリも用意してあるし、一徹は覚悟している。

 

 カプリスがログインしました。


 ルーナ:あっ、来ましたね

 マール:お疲れ様。さぁ早く狩りに行くわよ

 カプリス:お、もうログインしてたのか


 今日はいつもよりもご飯が長引いたとはいえ、ログインするのはいつも俺の方が早かった。そのため、二人がいることに少し驚いてしまう。


 マール:まあ、カプリスだけに無理させるわけにはいかないからね

 ルーナ:そうです……。未来の旦那様に体を壊してもらっては困りますから

 マール:ちょっとルーナ! カプリスは私の旦那様になるのよ

 ルーナ:そんなことないよ! カプリスさんは私を選んでくれるもん

 カプリス:あはは……

  

 二人は恥ずかしがりながら言っていると思っていたら、いつの間にか口論になっていた。

 なんだかこんなやりとりも久しぶりな気がするな。


 マール:ってチャットしてる場合じゃないわよ

 ルーナ:あっ、そうだった。早く素材集めに行かないと

 カプリス:そうだな。取り敢えず狩場に向かうか

 マール:そうね

 ルーナ:はい!


 本来の目的を思い出して、俺たちは早速狩場へと向かった。


 最近よく利用している狩場はエルフの森というところだ。家具作りには多くの木材を手に入れることができる。

 ブラックウッドやホワイトウッドなどの木材で色も決めることができる。


 マール:ここで狩りをする時毎回思うんだけどさ


 狩りが一段落ついた時、マールが急にそんな事を言ってきた。

 カプリス:なんだ?

 マール:私とルーナって曲がりなりにもエルフじゃない?

 カプリス:そうだな

 マール:それなのにこの森で狩りしてたら、なんか故郷を滅ぼしてる感じがするのよね

 カプリス:そんなこと気にしてたのか


 そんなこと気にしてる人居るんだな。神経質な人なら確かにあるのかもしれんが。


 ルーナ:お姉ちゃんちょっとメタいよ

 カプリス:あれ? ルーナは気にならないのか?

 ルーナ:そうですね。エルフが出てくるのもイベントの時くらいですし、いつもはただの森ですからね

 カプリス:それもそれでちょっとメタいと思うぞ


 マールの話を聞いた後だと、全く気にしないルーナも少し変に感じてしまった。ルーナの方が普通のはずなのに。


 ルーナ:でもこうも狩りをしている人が多いと少し複雑ですよ


 そう言ってルーナが周りを見渡すと、多くのプレイヤーが狩りをしていた。やはり、家具を集めたい気持ちは変わらないため、ここは今ティアトップの狩場になっているのだ。


 カプリス:まあ仕方ないと思うけど

 ルーナ:そうですよね

 マール:気にするだけ無駄ってことなのよねぇ


 人には人の考え方があるもんだなと再認識させられたな。もし俺がエルフだったとしても、何食わぬ顔で森を伐採してるに決まってる。


 カプリス:そろそろ狩りを再開するか

 マール:そうね。ちょっとは休憩もできたし

 ルーナ:もうMPもだいぶ回復しました

 カプリス:よし、やるか!

 

 俺たちはもう一度やる気を入れて、魔物のいるところへと向かった。


 

 カプリス:それじゃあ今日もお疲れ様

 ルーナ:お疲れ様です

 マール:お疲れ〜


 もう時刻が四時を回りそうになった時間帯、俺たちは解散することになった。


 ルーナ:カプリスさんはまだするんですか?

 カプリス:そうだな。明日は休みだし

 マール:いいけど無理はしちゃダメよ

 カプリス:それはわかってるよ

 ルーナ:あと、明日の狩りの時間にも遅れちゃダメですよ

 カプリス:わかってるよ十一時からだよな


 今日はオールするつもりなので、遅れることはないだろう。


 ルーナ:それじゃあ、改めてお疲れ様です

 マール:お疲れー

 カプリス:二人もゆっくりと休むんだぞ。特にルーナは病み上がりなんだし

 ルーナ:はい、ありがとうございます!

 マール:大丈夫よ


 その言葉を最後に二人は、ゲームから姿を消した。


「よし、ここからまた気合い入れるか!」


 一人でやるのは効率が落ちるため、出来るだけ落とさないように上手く立ち回らなければならない。


 カプリス:雷斬剣!


 誘導スキルで集めた敵をスキルを振り回しながら、殲滅していく。

 しかし


「三人でやってた時の半分以下だな」


 わかってはいるものの、やはり効率が落ちてしまう。ルーナのバフにマールの全体攻撃の有り難みを改めて感じる。


「せめてもう一人攻撃ができるやつがいたら効率も上がるんだけどな」

 

 こんな時間だ。もう外は明るく、六時を回ろうとしている。廃人たちが今から寝るくらいのタイミングに人がいるわけないんだよな。


 メサイア:あれ? カプリスか!?

 カプリス:お! メサイアじゃないか! なんでここに!


 あれ? なんでこいつがここにいるんだよ。しかし、何度チャット欄を見ても画面を見ても、メサイアの名前とキャラが映っている。


 メサイア:今日は早く目が覚めたからな。久しぶりにやるかってなったんだよ

 カプリス:なるほどな。ってか早すぎだろ

 メサイア:まあ、俺は優等生だからな

 カプリス:自分で言うのかよ

 メサイア:実際そうだからな


 そう豪快に笑うメサイア。なんだかこの笑いを見ていると安心してくる。


 カプリス:でもなんでここに?

 メサイア:なんでってここが今一番熱い狩場だって聞いたからだよ

 カプリス:あーそれな……


 本当にゲームを開いてないんだなと思いつつ、メサイアに説明した。


 カプリス:——と言うわけで、ギルドに所属していないお前はここで狩りする必要はゼロってことだ


 お金を集めるならもっと効率がいい場所もあるからな。


 メサイア:な、そう言うことか。ならお前は……って聞くまでもないか。あの二人と同居生活してるもんな

 カプリス:そんなんじゃねえって

 メサイア:なんか最近もっと仲良くなってるってのは聞くぞ?

 カプリス:なんでそのことだけは情報が新しいんだよ


 こいつの情報はどこから仕入れてきているのか。


 メサイア:俺はお前の厄介オタクだぞ?

 カプリス:それを言われちゃ納得せざるを得んな


 会うたびに進展を聞いてくるような奴だもんな。


 メサイア:それにしても、どうしようか。どうせならここで狩りして行ってもいいんだが

 カプリス:やること決まってないなら、素材集め手伝ってくれないか? 素材も山分けでいいし

 メサイア:おういいぞ。やる事ないし。後素材も全部やるよ。俺が持ってても宝の持ち腐れだ

 カプリス:マジでか……

 メサイア:ああ、マジだ!


 なにこの男。いい男すぎんだろ。俺が女なら確実に惚れてた。いや、男の今でもドキッと来てしまった。


 カプリス:マジで助かる! またお礼するから

 メサイア:じゃあ貸しってことでいいな

 カプリス:ああ、ありがとう!


 こうしてメサイアと共に狩りをすることになった。

 メサイアは盾役で全ての攻撃を引き受けてくれるため、相当狩りがやりやすく、段違いで効率が上がった。

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