第21話 テスト前日 後半戦

 お昼ご飯を食べ終わり今日の後半戦が始まった。


「それじゃあこれからはテストを行います。最後の確認テストですから最低60点は取るようにして欲しいです」

「60点!?」

「でも、今の私たちならいけるわよ」


 確かにそうだ。少し点数には驚いたが、今まで頑張ってきたのだから絶対に取れる。

 彩花と目を見合わせて絶対に合格するという思いでお互いに頷いた。


「今回はいつもより量が多いですので頑張ってください」

「おう、頑張るさ」

「そうよ。絶対テストを乗り越えてゲームをするんだからね」


 そう気合を入れてテストへと取り掛かった。鏡花に手渡されたテストは確かにいつもよりも分厚く、問題も倍くらいに増えていた。


「この問題、いつも以上に作るのが大変だったんじゃないのか?」

「そんなことないですよ。二人とこれからゲームするんですから、その時間を削りたくありませんから」

「そっか」


 この問題量が五教科以上あるのだ。おそらく徹夜して作っていたのだろう。

 鏡花は「それに」と先ほどの言葉から付け加えるように、口を開いた。


「葉山さんを誘ったのは私なんです。お姉ちゃんに強制したのも私です。ならその責任は絶対に果たしますから。どんなにしんどくっても」


 えへへと小さく笑いながら、そんな芯の強いことを言う鏡花。

 こんなにしてもらってもう鏡花に足を向けて寝れないな。


「ありがとう鏡花さん! うおー!! 俄然やる気が出てきた!」

「そうね。鏡花のためにも絶対にいい点数取るわよ」


 鏡花の本意を聞いて、最後の気合い注入をするように頬を叩いた。


 そして一教科三十分のテストを全教科受け終わった。


「できたぞ!」

「これで全て終了ね」

「それじゃあ採点しますね」


 鏡花が俺たちの解答を受け取り、赤ペンを取り出し採点を始めた。


 静かな空間の中で、シュッシュっと丸つけの音だけが響いていく。

 俺たちは内心ソワソワしながら鏡花の丸つけを待っていた。


「……全部終わりました」


 しばらくその緊張が続いた中、鏡花の声そうしっかりと聞こえてきた。


「どうだった!?」

「どうなの!?」

「まずお姉ちゃんは……全部60点以上だよ!」

「ほんと!?」


 強化の合格発表に拳を高らかに挙げる彩花。

 彩花は合格か。なんだかホッと一安心な気持ちと、ものすごいプレッシャーの二つの感情が混ざり合っている。


「お姉ちゃんは歴史の暗記と、古文の助動詞が甘いところがあったから、そこさえ気をつければ絶対にいけるよ」

「本当ね、日本史と古文は結構ギリギリだわ」


 彩花は頷きながら鏡花の話を聞いていた。

 

「きょ、鏡花さん……おれは?」


 ちょっとしたアドバイスを彩花にしていた鏡花に、思い切って聞いてみる。

 我慢するつもりであったが、これ以上緊張に耐えられるほど俺のメンタルは強くなかった。


「葉山さんは……」


 ゴクリと息を呑む、少し静寂の時間が流れる。


「合格でしたよ」

「本当か!?」

「ええ、でも……」


 少し気まずそうに答案を渡してくる。


「数学と英語が60点ジャストかよ!」

「本当にギリギリでしたね」


 マジかよ、あぶねー……。こんなところで60点以下なんてとったら、終わりだった。

 マジで良かった。一気に緊張が解かれた安心感でグダーっと床に座り込む。


「本当にありがとうな。鏡花さんのおかげだよ」

「これなら絶対欠点は取らないわ」

「それなら……良かったです。私も安心しました」


 みんなで小テストの合格を喜び合う。

 まだ欠点回避したわけではないのだが、一つの通過点を通過したのだから、多少喜んでも罰は当たらないだろう。


「休憩がてら、私は飲み物とってくるわね」

「わ、私も……」


 彩花がそう言って立ち上がり、それに続いて鏡花が立ち上がった瞬間、


 鏡花はふらりとバランスを崩した。


「危ない!」


 間一髪、鏡花の体が地面に落ちる前に抱き抱えることができた。

 その腕から伝わってくる鏡花の体温は以上なほど高いと感じた。


「大丈夫か!?」

「……だ、大丈夫です。少しバランスを崩してしまっただけですから」

「そんなわけ——」

「ちょっとごめんね!」


 呆然としていた彩花だったが、正気に戻るや否や片手を自分の額に当て、もう片方の手を鏡花の額に当てる。


「あっつ! 鏡花! やっぱり無理してたんじゃないの」


 びっくりしたような心配したような顔で、鏡花に対して声をあげる彩花。


「ごめん……なさい」


 そう言ったのを最後に、鏡花は俺の腕の中でまぶたを閉じ、気を失うかのようにぐっすりと眠りについた。

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