第20話 テスト前日 前半戦
次の日からも勉強づくしの毎日だった。
学校が終わると、二人の家に行き、勉強をして、帰ってからも勉強をする。
「それじゃあ今日の小テストです」
鏡花は2日目以降、毎日全教科の小テストを作ってきてくれていた。
本当にすごい労働力で問題の質も良かった。
ここまでしてもらっているのに、欠点をとるわけにはいかない。
そして、テストが始まる前日となった。
運良く日曜日だったため、1日かけて最後の仕上げをすることにした。今日もいつも通り、二人の家へと向かった。
「お邪魔しまーす」
「どうぞ」
「頑張るわよ」
もう慣れた手つきで二人の家に上がり、鏡花の部屋で勉強を始める。
「ここの英文の日本語訳間違ってますよ」
「えっ?」
「ほら、ここの構文の意味はなんでしたか?」
鏡花は俺の真隣に近寄って英文の一部に線を引いて問いかける。
「あー! 本当だ」
「こういうのは早めに覚えてテストで同じミスはしないようにしてくださいね」
「ああ、わかった」
「鏡花ー! こっちも教えて欲しいんだけど」
「うん、わかった」
午前中ずっとこんな感じで、解いてわからないところは鏡花に訊いての繰り返しだった。
もう勉強にもある程度慣れてきて、時間が経つのがとても早く感じた。
「ここまでできれば欠点なんて取らないわよね」
「そうだなー、今人生で一番頭いいって感じするわ」
「二人ともずいぶん成長しましたから」
一段落ついてさっきまで張り詰めていた糸を解くかのように、みんなグデっとしていた。
「本当に鏡花さんのおかげだよ」
「私は全然ですよ。二人が頑張ったからです」
「そんなことないわ。 鏡花がいなかったらどんだけ頑張ってもどこかで詰まってただろうし」
「そうだよな。勉強始めた初日なんてわからないことだらけだったし」
「そう思ってもらえてるなら嬉しいです」
そう褒められて少し頬が緩んでいた。
まぁ実際鏡花が居なかったら絶対無理ゲーだったし、いつかお返しができればいいな。
「それじゃあそろそろ私はご飯を作ってくるわ、二人はゆっくり休んでて」
「ありがとうね、お姉ちゃん」
「ありがとう! できたらご飯運ぶの手伝うから言ってくれよな」
「分かったわ」
少し休憩して回復したのか、彩花は立ち上がってキッチンへと向かった。
「いやーこうなったらテスト終わりのゲームが楽しみだな。いろんな家具をゲットしたりして」
「…………」
俺がそう明るく話しかけてみると、鏡花はなんだかおっとりとした目つきでぼうっと遠くを見つめていた。
「鏡花さん?」
「えっ……? は、はい! 何か言いました?」
もう一度話しかけると、次はびっくりしつつも、一応は言葉は返ってきた。
「テスト終わりのゲームが楽しみだよなぁって」
「……ああ、確かにそうですね。家具欲しいの集めたいですから」
なんだかこうやって普通の会話をするのは久しぶりな気がしたものの、少し元気がなさそうに感じられた。
「鏡花さん大丈夫?」
「えっ? 何がですか?」
「今日はなんだかぼうっとしてることが多いなって」
「そ、そうですかね? 気のせいだと思いますよ」
「そうかな」
鏡花がそう言うなら良いんだけど、やっぱり少し気になるよな。誤魔化しているつもりだろうけど、やっぱり少し変だし。
「でも大丈夫じゃなくなったら言ってくれよ。なんでも助けになるからさ」
「……はい。ありがとうございます。でも今は大丈夫ですから安心してください」
「ああ、わかった」
暗い表情だったのが、少し明るくなったため多少安心できた。
それからしばらくして
「葉山ー! ご飯できたから運ぶの手伝って!」
そんな言葉が一階から響き渡る。
「わかった!」
そう返事をして下の階に向かおうと立ち上がった。
「わ、私も」
「鏡花さんは休んでて。今まで勉強教えるので大変だっただろうし」
立ちあがろうとする鏡花を制止して、そう声をかける。
今まで勉強をたくさん教えてもらっていたし、ここでちょっとでも休んでてもらわないとな。
「ありがとう」
「全然だ」
鏡花の柔らかいお礼の言葉を受けながら、俺は階段を降りて行った。
「それじゃあ葉山はこれとこれを運んで」
「りょーかい」
今日のご飯はきつねうどんだった。
めちゃくちゃ良い匂いで美味しそうだ。しかし、それ以上に気になったことを彩花に問いかける。
「彩花さんちょっと良いか?」
「なによ?」
「鏡花さん大丈夫か?」
「どういうこと?」
「なんか彩花さんが出て行ってから少し様子が変だったんだ」
「そうだったんだ」
少し考える様子を見せた彩花だったが、すぐに口を開いた。
「……大丈夫よ。いざとなったら私がついてるから安心して」
「そっか……。彩花さんって頼りになるな」
「当たり前じゃない」
彩花の言葉は安心感があった。
そりゃあ俺よりも双子の彩花の方が百億倍、鏡花のことわかってるだろうからとっくに気づいていたのだろう。それなら俺が心配するだけ野暮だったのかもな。
「取り敢えずご飯運びましょ」
「ああ、そうだな。うどんが冷えたら大変だ」
「そうよ。せっかくの私の料理なんだから」
そんな会話をしつつ、二人でお盆を持って階段へと上がった。
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