第18話 夜ご飯

「それじゃあ私たちで作ってくるから、そこで休んでていいわよ」

「ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとう」


 彩花と鏡花は目の前のキッチンへと向かった。 

 くつろげと言われたが、人の家でくつろげるほど肝っ玉は座ってないため、なんだかソワソワしてしまう。


 とりあえず四つあるうちの一つの椅子に座り、二人の料理姿をぼうっと眺める。


「ちょ、こっちじゃなくてこっちよ!」

「あわわ……、ありがとうお姉ちゃん」


 なんだか言い合いながらもどんどんと料理が進んでいく。

 やっぱり彩花は手際がいいな。野菜の切るスピードも俺の数倍早い。

 でも鏡花は思っていたよりかはゆっくりとしたペースで慎重に進めていた。


「まぁ早けりゃいいってもんじゃないしな」


 別にゆっくり作っても上手い人はごまんといる。別におかしくもなんともないはずだ。

  なのになんだろうこの嫌な予感は。


 そんなことを思いつつ、見入るわけでもなくぼうっとみていると、しばらくして二人が料理を運んできた。


「できたわよー」

「で、できました!」

「おお!」


 目の前に料理が置かれていく。

 腹が減っていたこともあり、いい匂いが余計に際立つ。今直ぐ食べてしまいたいくらいだ。


「それじゃあ食べましょう」

「「「いただきます!」」」


 三人仲良く手を合わせた。


「まずこの唐揚げから食べてみて」

「ああ」


 彩花に催促され唐揚げを口に放り込む。

 やっぱり美味しい。ジューシーで外はカリ、中はジュワの模範的な唐揚げ。


「やっぱり彩花さんの料理は美味いな」

「そ、そう!? まぁ当たり前だけどね!」


 一瞬恥ずかしそうにしたものの、その恥ずかしさを隠すようにドヤ顔になる彩花。


「お姉ちゃんの料理は美味しいですからね」

「本当にな」

「も、もう! 二人ともそんなに褒めないでよ!」


 それを見抜いていた鏡花が彩花にに追い討ちをかけると、頑張って保っていた彩花の顔が少しニヤニヤし出した。


「彩花さんでもやっぱりこう褒められると恥ずかしがるよな」

「お姉ちゃんは意外と初心なんですよ」

「もう鏡花! そんなこと言わないでいいわよ!」

「本当のことだしなー」

「もう鏡花ー! 許さないわよ!」

「ごめんってー」


 ついに爆発した彩花が鏡花にキレるような仕草を見せる。しかし二人とも楽しそうで、これが普段の光景なんだと見るだけでわかる。


「葉山! こっちの唐揚げも食べてみて!」

「うん?」


 会話の飛び火がなぜかこっちに飛んできた。彩花が指差した料理を見てみると、他のよりも歪で焦げていた。

 

「ちょっとお姉ちゃん、そっちは……」

「良いじゃない。食べてもらうために作ったんだし」

「それはそうだけど……」

「それに私をからかった罰よ」


 鏡花が辞めさせようとするものの、立場が変わった彩花を止めることはできそうになかった。

 うん? もしかしてこれって。


「もしかして鏡花さんが作ったのか?」

「あ、はい……一応……」


 渋々、申し訳なさそうに答える鏡花。

 

「む、無理に食べなくても良いですからね」

「うん? なんでだ。普通に鏡花さん料理食べてみたかったし」

「そ、そうなんですか……」

「そんなこと前にも言ってたわね」

「そうそう、だから無理なんかしてないぞ」


 少し歪なものの、別に味は変わらないだろう。よっぽど酷くない限りは普通に食べれる。

 そう思い口の中に放り込む。


「…………っん…………」


 なんだこの味。しょっぱいかと思ったら急に甘い味が口の中全体を覆う。

 どうやって作ったらこんな料理できるんだ?


「ちょ、大丈夫?」

「えっ!? なんでだろう」

 

 鏡花は不思議そうに自分が作ったであろう唐揚げを頬張る。

 その数秒後顔色を変えて、水で一気に飲み込む。


「なんでこんな変な味が……」

「おかしいわね。私と一緒に作ってたはずでしょ?」

「はっきり言うが、鏡花さんと彩花さんの料理は雲泥の差だな」

「うう……」


 申し訳なさそうに下を向く鏡花。


「でも、しょうがないわよ。今までろくに料理してこなかったんだから」

「そうなんだな」

「はい……、お姉ちゃんが料理上手だったから、しなくても良いやって思ってて……」

「なるほどなぁ」


 確かに、近くにこんなに料理の上手い人がいたら全部任せたくなるよな。

 だが、ここまで酷くならないと思うが……。これは心のうちにしまっておこう。


「あの、だから食べなくても良いですから」

「…………」


 俺は鏡花の作った唐揚げをじっと見つめていた。


 はっきり言ってこれは不味い。でも食べたいって言ったのは俺だし、それが彩花から鏡花に伝わったのかもしれない。


「よし!」


 気合いを入れて鏡花の唐揚げをかき込んだ。そして彩花の唐揚げと白飯、水、野菜で順番に流し込みながら何とか完食する。


「ふう……ごちそうさま」

「あんたも男らしいとこあるじゃない」

「出された料理は残さず食べないとだからな。俺も料理はそんなしないから」

「葉山さん……」


 なんだかとても泣きそうな顔をしながらこちらを見つめてくる。


「あ、ありがとうございます……。無理しなくてもよかったのに」

「全然そんなんじゃないって。失敗は誰にだってあるし、鏡花の料理を食べたいって言ったのは俺だし」

「本当にありがとうございます!」

「ちょっと見直したかも……」


 完食しただけでここまで褒められるんだったら、完食した甲斐があったってもんだ。

 本当に嬉しそうな顔をする鏡花と感心した様子で頷く彩花。対面でこの二人にこんなにも褒められるなんて初めてかもしれないな。


「これから彩花さんとかに教えてもらって練習すれば直ぐに上手くなるよ。その時にまた食べさせてもらおうかな」

「は、はい! 頑張って練習します!」

「今日一緒に作って楽しかったからいつでも教えるわよ」

「ありがとう! お姉ちゃん!」


 そう楽しそうな笑顔の二人は、ご飯を食べすすめていく。

 俺はその光景をなんだか微笑ましいなと思いながら、じっと眺めていた。

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