第16話 勉強会
次の日の放課後、俺は地図を見ながら清水姉妹の家を目指していた。
今日の昼休み、「少し余裕を持った時間でこの地図通りに来てください」と言われて、地図と住所を書いた紙を渡されていた。
「まあこれが一番バレない行き方だよな」
単純だけど、単純だからこそバレにくい。
「もう直ぐ着くと思うんだけど」
地図通りに探り探り進んでいく。
ここも学校から数キロ離れた所だったが、道が入り組んでいて少し分かりにくかった。
「ここか?」
地図にある大きなスーパーを曲がり、表札に清水と書かれている家を見つけた。
二階建ての家で、外観はおしゃれ、思っているよりも良いところに住んでいるのだと実感させられた。
合っていると信じてインターホンを鳴らす。
少し待つとインターホンの通話のところから声が聞こえてくる。
『葉山さんですか?』
「ああ、そうだよ」
『分かりました、今行きます』
その言葉で通話が切れ、少し待つとドアがガチャリと開いた。
「お待たせしました、誰にもバレませんでした?」
そこに現れたのは私服の鏡花。帰ってきたら着替えるのは当たり前なのだが、見慣れていないため見惚れてしまう。
オフ会の時と比べてだいぶフランクなものの、素材がいいため何を着ても似合うのだろう。
「……あ、ああ。大丈夫だ。最後に教室を出たし」
「それはよかったです」
鏡花は俺の言葉に安堵したようで、胸を撫で下ろす。噂になったらなったでめんどくさいから、気持ちはわかる。
「それじゃあどうぞ」
「今日はお世話になるな」
「今日はじゃなくて今日からですよ」
「そ、そうだったな……」
これからテストが終わるまで、清水姉妹の家で勉強会を開くと昼休みに言われていたのだった。何でも両親は仕事で夜遅くまでいないらしく、いつ来ても大丈夫だからということらしい。
そこまでしなくてもと思うのだけど、鏡花は毎回これくらい勉強していたんだよな。
「とりあえず中に入りますか。外で話しているのもアレですし」
「それじゃあお邪魔させてもらうか」
「はい、どうぞ」
鏡花に案内され、階段を登り奥の部屋まで歩いていく。
外装だけでなく内装もとてもおしゃれで、その中に一般家庭風の安心感があっていい家だなと思った。
将来こんな家を作れたら楽しいだろうな。
なんて馬鹿なことを考えていると、鏡花が立ち止まる。
「ここです」
「おっ、着いたか」
ドアの前には「きょうか」とひらがなで書かれた板が吊るされていた。何だか可愛いと思いつつ、部屋の中へと入る。
廊下はほんのりと二人の匂い感じるだけだったが、部屋になると鏡花の良い匂いが余計に感じられた。
やはり女子というのはすごいな。俺と同じ人間なのにどうしてこうも良い匂いがするのか。
「やっと来たわね!」
じっと考えていた俺を現実に戻すような甲高い声が耳を通り抜ける。
「ごめんごめん、意外と残る人多くてさ」
「バレるよりは全然マシだから気にしなくていいわよ」
先に勉強を始めていたらしい彩花が、出迎えてくれた。
鏡花が着替えているのだから当然と言えば当然だが、彩花もラフな格好へと着替えていた。
鏡花と違ってこういう格好はしてそうなイメージはあったのだが、それでも少しドギマギとしてしまう。
しかしこうしてみると二人とも胸が大きいな……。
ラフな格好をしてみて初めてわかる。薄めのTシャツを押し上げている双丘の存在感がえげつない。
高校生にしてこれは十分過ぎるほどの、大きさだ。
「葉山!」
「ひゃ、ひゃい!」
変なことを考えていたせいで、声が裏返ってしまった。
「葉山さん何かいやらしいこと考えてませんでした?」
「い、いやー別にそんなことないぞ」
こんな短時間だぞ。バレているはずがない。
「ほんっとーに? 何だか視線が下に向いてたみたいだけど?」
「うっ……」
女子はこういうのはすぐに気づくと言われていたがここまで察しがいいとは。
他のことじゃ気づかないことも多々あるのに。
「やっぱりそうなんですね」
「最低ね」
二人は軽蔑するような目でそう言うと、胸を手で覆うように隠した。
やばいな。こんなことで嫌われたらマジでしょーもないぞ。
「ご、ごめん! 見ようと思ってたわけじゃ無いんだけど、思わず二人が綺麗で目がいっちゃって」
こんな謝り方じゃダメかもしれないが、思いついたことをできるだけ付け加えて頭を下げた。
「なーんて冗談よ!」
「えっ?」
彩花は謝る俺を見て、今にも笑い転げそうなほどの勢いで笑い出した。
「多少見るくらいしょうがないですよ……。男の子なんですから」
少し恥ずかしそうにそう言う鏡花。
恥ずかしいなら別にそう言うこと言わなくてもいいからな。
「そうよ。私たちは見られ慣れてるし」
「やっぱりよく見られるのか?」
「そうね。女子は本当に鋭いから気をつけなさい」
「以後気をつけます」
本当にいい教訓になった。マジで嫌われたかと思って一瞬焦ったし。
「それにしてもこんだけ言い寄っても靡かない葉山には性欲がないと思ってたから少し安心したわ」
「何だよそれ、ちゃんとモラルはわきまえてるさ」
「私たちの……胸……を見てたのにですか……?」
「そ、それは」
それを言われると何も反対できない。でもしょうがないと思う。こんな可愛い双子が部屋着で現れたら誰だって目が行くに決まってる。
「まぁ私たちが魅力的ってことよ」
「そ、そうなんですか?」
「まぁ実際魅力的だしな。めちゃくちゃ可愛くてスタイルもいいなんて完璧だろ」
俺の言葉に鏡花だけでなく彩花までバツが悪そうに下を向いていた。
「そ、そんな恥ずかしいことはっきりと言わないでよね」
「言われる身にもなってくださいよ」
「ごめんごめん思わず本音が出ちゃって」
なんだかんだで告白されることはあっても、直接可愛いと褒められることは少なかったんだろうな。
言われ慣れてたらこんなに恥ずかしがる理由なんてないし。
「もう! さっさと勉強始めるわよ!」
「そ、そうだね。今日はしっかりと基礎を身につけてもらいますからね!」
「が、頑張ります……」
その場の空気に耐えられなくなった二人が無理やり話を変えてくる。
そして俺たちは三人で丸い机を囲むように座り勉強を始めた。
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