第15話 自主勉強

「はぁ、何にもわからん」


 家に帰り、勉強しようと机に向かったものの、開始数分で頭がパンクしそうになった。

 帰る前にも鏡花にやれよって感じで見られていたので、仕方なくやっていたけど……本当に意味がわからない。

 

「俺ってこんなにも勉強できなかったんだな」


 少し落ち込みそうになる。テスト自体久しぶりだったため、自分がこんなにも馬鹿だということを忘れていた。

 現代文と日本史世界史はなんとかなる。

 ラノベを読んでいたし、歴史をテーマにした作品など山ほどあるから、分かるところは意外とある。


 問題は数学と英語だ。

 なんだよ関数って。こんな線のこと学んでなんになるんだよ。


 若干イライラしつつも、教科書にある初級の問題(俺にとっては東大クラス)を悪戦苦闘しながら解き進めて行った。



「ふう、結構やったか?」


 ひと段落がつき時計を見てみる。

 俺が始めたのが大体五時半で……今六時半である。

 こんなに勉強したのはいつぶりかな。


 うんと背筋を伸ばして休憩を入れることにした。

 最初から飛ばしすぎても良く無いしな。

 自分を納得させながら椅子に座る。


「やっぱり息抜きは大事だよな」


 そんなことを呟きながらパソコンの電源を入れた。

 鏡花は禁止だって言ったものの、仕方がないよな。

 それに二人とも勉強してるだろうから、俺がログインしてもバレないだろう。


 キャラクターはもちろんカプリスを選択し、ゲームの世界へと入り込んでいく。


 カプリスがログインしました


「よし、やっぱりいない!」


 ガッツポーズを決め俺は狩りに向かう準備を整える。

 やっぱりゲームに関しては俺の方が頭がいいんだよな。

 そんな自画自賛のようなことを思いつつ、狩りへと向かう途中——


 ルーナ:どこに行くのですか?

 

 今一番見たく無い名前がチャット欄に現れた。


「はあ!? 何でいるんだよ」


 俺の作戦は完璧だったはずなのに。

 何か言い訳を、何か言い訳……。


 カプリス:ほら、息抜きは大事だろ? ずっと勉強じゃ持たないって

 ルーナ:確かにそれは一理ありますね


 おっ? 一瞬焦ったけど上手くいくかもしれない。

 やっぱりゲーム内じゃ俺に好かれたいだろうから、強くは言ってこれないのだろう。


 ルーナ:それじゃあ今日は何時間勉強しましたか?

 カプリス:聞いて驚くなよ

 ルーナ:はい

 カプリス:一時間だ!


 俺は胸を張って堂々と答える。一時間は相当頑張った方だ。これなら許可が貰えるかもな。


 ルーナ:全然じゃ無いですか!


 安心しきっていた俺の心を砕くかのような発言をしてくる。


 カプリス:いやいや、一時間だぞ多いだろ!

 ルーナ:やっぱり一人でやるのは無理でしたか


 淡々とチャットを打っているように見えるが、俺には見える。画面の向こうで頭を抱えている鏡花の姿が。


 カプリス:もしかして俺の勉強時間少なすぎ?

 ルーナ:少ないです。一時間で褒められるのなんて小学生までですよ

 カプリス:そ、そんな……orz


 おかしい。俺が一時間の勉強をするなんて、快挙のはずなのに。


 ルーナ:もしかして今までもこれだけの勉強で乗り切ってたんですか?

 カプリス:いつもはもっと少ないな。一時間なんて何年ぶりか。

 ルーナ:それで定期テスト突破できるの普通にすごすぎですよ

 カプリス:そうなのか?


 これが普通だと思ってたんだけど。俺天才なのかもしれない。


 カプリス:なら

 ルーナ:でも、今回は許しませんよ

 カプリス:何で言おうとしたことがわかるんだよ

 ルーナ:何年の仲だと思ってるですか。分かりますよ


 くそ、こんなところで仲が良すぎることが裏目に出ている。どうにかしてでもゲームがやりたい。


 カプリス:なぁ、今回だけ許してくれないか

 ルーナ:絶対ダメです!

 カプリス:どうしてそんなに勉強させたがるんだ?

 ルーナ:そんなの決まってるじゃないですか


 ルーナはいきなりカプリスの手を握りながらチャットを送ってくる。


 ルーナ:新しいイベント、カプリスさんがいなかったら嫌なんです! 一緒に居たいですから

 カプリス:そっか……

 ルーナ:マールも今カプリスさんとゲームやるために頑張ってますから頑張りましょ?

 カプリス:……ああ、もうちょっと頑張ってみるか


 二人がこんなにも俺とやりたいために頑張っているのに、俺だけサボるわけにはいかないよな。


 ルーナ:約束ですよ!

 カプリス:わからないところばかりだしな。やってやるさ


 ルーナにここまで期待されたらやるしかない。しっかりと欠点回避して楽しくゲームをしてやろうじゃないか。

 

 そう意気込んでいるとルーナからある提案をされた。


 ルーナ:……わからないところ教えますよ?

 カプリス:まじか!? でもどうやって?


 めちゃくちゃ助かるが電話やチャットでもしっかりとは教えれないだろうし。


 ルーナ:…‥うちに来ますか? そしたらマールと一緒に教えれますし

 カプリス:そんなのいいのか!?

 ルーナ:私は大丈夫ですよ?

 カプリス:マールは?

 ルーナ:ちょっと待っててくださいね

 カプリス:おk


 それからしばらく時間が空く。おそらく今説得しているのだろうな。


 ルーナ:お待たせしました


 数分後、ようやくチャットが返ってきた。


 カプリス:どうだった?

 ルーナ:許可とりましたよ、「私が勉強してるのにあいつがゲームしてるのは許せないから」らしいです

 カプリス:マールらしいな

 ルーナ:多分照れ隠しだと思いますけどね。マールも心配してましたから

 カプリス:そうなのか?

 ルーナ:はい


 意外だな。でも、やっぱり一緒にゲームできなくなるのは嫌だからな。マールにもその気持ちがあるのだろうな。


 ルーナ:それじゃあ明日、色々考えて昼休みにバレないような行き方伝えますので

 カプリス:本当にありがとうな

 ルーナ:カプリスさんのためなら何でもしますからね


「何でもって……」


 その発言に少しどきりとしたのはいうまでも無いだろう。


 ルーナ:それじゃあ私は落ちますけど、カプリスさんも勉強してくださいね

 カプリス:わかってるよ。わかるとこだけでも復習しとく

 ルーナ:偉いです。それじゃあ乙です

 カプリス:ああ、乙ー


 ルーナが落ちたのを見送った後、俺もログアウトして、改めて勉強へと取り掛かった。

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